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ロスなく短時間でのGaN基板レーザスライス技術を発明 ~GaN基板を用いたデバイスの大幅な低コスト化に期待~

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の天野 浩教授、田中 敦之 特任准教授らの研究グループは、浜松ホトニクス株式会社との共同研究で、レーザを用いてGaN注1)基板をロスなく短時間でスライスする技術を新たに発明しました。
 単結晶のGaN基板は高性能なGaNデバイスには欠かせないものですが、価格が非常に高く、GaN基板を用いたデバイスの普及の妨げとなっていましたが、本研究によってGaN基板を用いたデバイスの大幅な低コスト化及びそれによる社会への普及が期待されます。
 本研究成果は、2021年9月9日付及び2022年5月5日付イギリス学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。  本研究は、平成30年度及び令和3年度から始まった総務省「電波資源拡大のための研究開発(JPJ000254)」及び「戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)(JP215006003)」の支援のもとで行われたものです。

 

【ポイント】



・レーザによってカーフロス(切りしろ)なくGaN基板をスライス可能なため、高価なGaN結晶のスライス時の無駄が非常に少ない。
・ワイヤーを用いないため切断面のうねりが少なく、切断面も非常に平坦であるため、スライス後の研削研磨の量を抑えられる。
・非常に硬く脆い素材であるGaNを高速で切断可能。
・GaN基板を透過するレーザ光を用いて加工を行うため、デバイス形成済みのGaN基板の裏からスライスを行い、デバイス層のみを切り離すことも可能。また大きな振動やストレスが発生しないため切断後のデバイスも正常に動作可能。

 

【研究背景と内容】



 脱炭素社会、持続可能な社会のためには電力の効率的な利用は不可欠です。電力の効率的な利用のためのパワーエレクトロニクスにおいて、現在注目を集めているのがパワー半導体注2)及びパワー半導体を用いたパワーデバイス注3)です。パワーデバイスは電気自動車や電車/新幹線等で動力に効率的に電力を引き渡す装置や、太陽光発電や風力発電等の自然エネルギーによって発電された電気を使える形に変えるもの、そしてパソコンやスマホの充電用のACアダプターで交流の電力をバッテリーに充電できる形にするものとして、本当に様々な分野で利用されています。そのパワーデバイスを作るための材料であるパワー半導体において、より高性能なパワーデバイスを作製するための次世代の材料として注目されているのがGaNです。しかし、GaNは結晶成長が難しいこと、結晶がとても硬くて脆い物質であり加工が難しいことなどから、GaN結晶から切り出したGaN基板は価格が高くなり、パワーデバイスとしての利用の大きな障壁となっていました。

 レーザスライスは、ワイヤーソー注4)を用いた従来の半導体基板の切り出し方法に置き換わるものです。ワイヤーソーを用いるスライスでは、切断時にワイヤーが通る部分の結晶は切りくずとなって消えてしまいます。GaNは非常に加工がしづらい材料であるため、ワイヤーも太いものを用いる必要があり、切断部分の素材ロスは切り出したい基板の厚さと同程度となってしまいます。一方でレーザスライスは、GaNのへき開注5)を利用するため原理的にはGaN結晶の無駄が生じません。また、大きな振動やストレスを与えずGaN結晶をスライスできるため、パワーデバイスを形成した後のGaN基板からデバイスを壊さずに薄く切り出すことも可能です。レーザを用いてGaN結晶のへき開を高度に制御することによって、GaN基板の成形のみだけではなく、様々な応用が可能なGaN結晶の新たな加工方法を開発しました。

 

 

 

[成果の意義]



 GaN結晶は高価かつ非常に硬く脆い素材ですが、その材料となるGaN単結晶のロスを極小に抑えつつ高速で切断可能です。材料的な面でも、時間的な面でも効率的な基板成形はGaN基板価格の低廉化に大いに役立ちます。
 また、基板の成形のみならずデバイス形成後の基板の薄化プロセスとしても使用可能なため、GaNデバイスの高性能化、低価格化にも大いに役立ちます。


[用語説明]


 

注1)GaN:
窒化ガリウムのこと。GaNはパワー半導体として高い性能を持つだけでなく、LED等の発光素子の材料としても有名である。

注2)パワー半導体:
電気をよく流す金属的な状態と、電気を流さない絶縁体的な状態を、任意に制御可能な材料である半導体のうち、特に電力制御を行うパワーエレクトロニクスに用いられる半導体のこと。バンドギャップの大きな半導体が適しており、次世代パワー半導体といった時にはSiC、GaN、Ga2O3、ダイヤモンド等のことを指す。

注3)パワーデバイス:
パワーエレクトロニクスにおいて、スイッチングデバイスとして用いられるトランジスタやダイオード等の電子デバイスのこと。交流⇔直流の変換や交流の周波数変換、直流の電圧変換を行う装置に用いられる。

注4)ワイヤーソー:
ダイヤモンド等をまぶした硬鋼線を、張力をかけた状態で高速に動かしながら結晶に押し当てて切断する方法。イメージとしては糸鋸に近い。

注5)へき開:
原子が規則的に整然と並んだ結晶では、その配置によって割れやすい面が存在する。そのようなある一定方向に割れやすい性質のことをへき開という。



[論文情報]


 

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Smart-cut-like laser slicing of GaN substrate using its own nitrogen
著者:Atsushi Tanaka, Ryuji Sugiura, Daisuke Kawaguchi, Toshiki Yui, Yotaro Wani, Tomomi Aratani, Hirotaka Watanabe, Hadi Sena, Yoshio Honda, Yasunori Igasaki, Hiroshi Amano        ※IMaSS関係教員は下線
DOI:10.1038/s41598-021-97159-w
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-97159-w

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Laser slice thinning of GaN-on-GaN high electron mobility transistors
著者:Atsushi Tanaka, Ryuji Sugiura, Daisuke Kawaguchi, Yotaro Wani, Hirotaka Watanabe, Hadi Sena, Yuto Ando, Yoshio Honda, Yasunori Igasaki, Akio Wakejima, Yuji Ando, Hiroshi Amano        ※本学関係教員は下線
DOI:10.1038/s41598-022-10610-4                                      
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-022-10610-4

[研究代表者]

未来材料・システム研究所 田中 敦之 特任准教授

天野研究室
http://www.semicond.nuee.nagoya-u.ac.jp/


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