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内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム 天野浩教授が代表の産官学の研究チームで ワイヤレス電力伝送に向けた基盤技術 開発が進む

  • 名古屋大学 天野 浩 教授を研究代表者とする研究グループが戦略的イノベーション創造プログラム注1)(SIP)第2期で「エネルギー伝送システムへの応用を見据えた基盤技術」の委託のもと、マイクロ波帯ワイヤレス電力伝送の基盤技術開発を推進
  • 名古屋大学の「エネルギー変換エレクトロニクス実験施設(C-TEFs)」を利用し、マイクロ波電力の受電に適したノーマリオフ型HEMT注5)を基本とするGaN整流素子注6)を開発、整流動作を確認

 

【研究背景と内容】
 名古屋大学 未来材料・システム研究所の天野 浩 教授(未来エレクトロニクス集積研究センター・センター長)を代表とする産官学(大学5機関、国研1機関、企業6機関)からなる研究チームは、内閣府が創設した戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期の課題「IoE注2)社会のエネルギーシステム」における研究開発項目「エネルギー伝送システムへの応用を見据えた基盤技術」の委託研究を受け、ワイヤレス電力伝送システム用のGaNデバイスおよび回路の研究開発を2018年度から進めています。
 この度、この研究開発の一環として名古屋大学のエネルギー変換エレクトロニクス実験施設(C-TEFs)においてノーマリオフ型GaN-HEMTの作製プロセスを確立し、このプロセスを用いたGaN整流素子において3.5ワット(電極幅1mm換算)の半波整流動作を確認しました。さらに、金沢工業大学が開発したレクテナ注7)に対してこの整流素子を適用したシミュレーションにおいて、高い受電効率の受電回路を構成し得る示唆を得ました。
 今後、整流素子としての性能向上に向けて構造の最適化と素子の大型化を進め、10ワットクラスの整流素子実現を目指します。また、今回同時に発表したレクテナ技術と組み合わせることにより、マイクロ波帯WPTシステム注3)における高効率受電回路として機能実証を行う予定です。

 

図1 2インチウェハ上に形成したGaNテストチップ(C-TEFsで作製)

図1 2インチウェハ上に形成したGaNテストチップ(C-TEFsで作製)

 

図2 GaN整流素子

図2 GaN整流素子

 

図3 ノーマリオフ型GaN整流素子の断面構造

図3 ノーマリオフ型GaN整流素子の断面構造

 

【成果の意義】
 ワイヤレス電力伝送(WPT)は、電源ケーブルを必要としない電力供給技術として着目されています。このワイヤレス電力伝送の手法の一つとしてマイクロ波を用いる技術がありますが、従来は受電した電力を直流に変換する際の電力変換効率が低く、また受電できる電力が小さいという課題がありました。
 この課題の解決には、受電回路に用いる整流素子のオン状態での抵抗値の低減と、素子に流すことができる電流の増大、さらにオフ状態での耐圧の向上が有効です。しかし、素子の抵抗を小さくすることとオフ状態での耐圧は相反する特性のため両立することが困難でした。GaNは整流素子のオン状態での抵抗値を低減することと電流を増やすことができるという観点で優れた特性が期待できます。今回の研究成果は、GaN-HEMTの特性を生かして、整流用ダイオードとして構造を工夫することにより、導通時のオン抵抗が小さく、耐圧も大きな特性を両立させる技術を確立したものです。
 ワイヤレス電力伝送が一般的になると、屋内に分散している機器やセンサーを常に充電している状態にでき、電源コードや電池の交換が不要になります。稼働中の移動型ロボットや自動輸送機器、飛行中のドローンなどに電力を送ることが可能になり、搭載するバッテリーを小さく軽くすることができます。また、これまで設置が制限されていた場所へのセンサーの設置やその24時間観測運用が可能になり、地震観測や河川の氾濫など防災に関するデータ取得が容易になると期待されます。この技術は将来の社会インフラとして、エネルギーを必要な場所に必要な時に供給できるIoE(インターネットオブエナジー)という概念を実現する基盤技術の一つです。

 

図4 IoEの概念図

図4 IoEの概念図

 

【内閣府・戦略的イノベーションプログラム(SIP)「IoE社会のエネルギーシステム」について】
 戦略的イノベーション創造プログラム第2期「IoE社会のエネルギーシステム」では、エネルギーシステムのグランドデザインを構築するとともに、その共通基盤となる技術、すなわちエネルギー変換に不可欠なパワーモジュール(USPM)とエネルギー伝送の多様化に応えるワイヤレス電力伝送に関する技術の研究開発を行っています。
 研究開発項目「エネルギー伝送システムへの応用を見据えた基盤技術」は、このうちのワイヤレス電力伝送に関する研究開発です。特に、今後ワイヤレス電力伝送技術が広く社会の基盤として普及する際に必要となる、従来のシステムより高い周波数を用いる電力伝送技術の確立を目指し、MHz帯注8)およびマイクロ波帯のWPTシステムについて、それぞれ要素技術の開発と機能実証を進めています。

「内閣府・戦略的イノベーションプログラム(SIP)」については、以下のHPをご参照ください。
https://www.jst.go.jp/sip/aboutSIP.html

「IoE社会のエネルギーシステム」については、以下のHPをご参照ください。
https://www.jst.go.jp/sip/p08/index.html

 


 

【用語説明】
注1)戦略的イノベーション創造プログラム
内閣府総合科学技術・イノベーション会議が司令塔機能を発揮して、府省の枠や旧来の分野を超えたマネジメントにより、科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトである。

注2)IoE
Internet of Energyの略。エネルギーの供給情報や消費情報がインターネットにより結合され、エネルギーの需給と供給の双方が管理される社会をIoE社会と呼ぶ。

注3)WPTシステム
Wireless Power Transfer / Transmissionの略。電気的な接点を使わず、離れた2点間で電力の送受を行える装置(システム)。磁気共鳴型、電界結合型、磁界結合型など自由空間にエネルギーを放射しないで電力を伝送する非放射型と空間を伝搬するマイクロ波を使う放射型が検討されている。

注4)GaNパワーデバイス
半導体材料として窒化ガリウム(GaN)を用いたパワー用半導体素子。耐圧が大きく、電流を流すときのオン抵抗が小さいことが特徴であり、スイッチ素子としてはオンとオフの切り替えが早いことも特徴である。

注5)ノーマリオフ型HEMT
GaN-HEMTのドレイン電流がゼロになるときのゲート電圧が負電圧であるときにはノーマリオン、正電圧であるときにはノーマリオフと呼ぶ。通信用増幅器にはノーマリオン型が使用されているが、整流用に適用するには、ノーマリオフ型が適してる。

注6)GaN整流素子
ここではGaNを用いたダイオードと呼ばれる2端子の半導体素子であり、電流が流れる方向と、流れない方向がある。交流とは電圧がプラスとマイナスに交互に周期的に変化するが、ダイオードに交流電圧を2端子間に加えると、プラス、またはマイナスどちらか一方の期間だけ電流が流れる。その特性を使って、交流から直流に変換することができる。

注7)レクテナ
Rectifying Antennaの略で、マイクロ波を直流電流に整流変換するアンテナの事。アンテナとダイオードなどで構成される整流器(回路)からなる。

注8)MHz帯
周波数の単位。10Hzが1MHz。13.56MHz帯などが国際的にISMバンド(産業科学医療用周波数帯)として割り当てられており、国内でも誘導加熱装置やプラズマ発生装置などで利用されており、WPTシステムの利用周波数の候補になっている。


【関連論文】
Hidemasa Takahashi, Yuji Ando, Yoichi Tsuchiya, Akio Wakejima, Hiroaki Hayashi, Eiji Yagyu, Koichi Kikkawa, Naoki Sakai, Kenji Itoh, and Jun Suda: “Electrical characteristics of gated-anode diodes based on normally-off GaN HEMT structures for rectenna applications”. Electronics Letters wileyonlinelibrary.com/iet-el, 6 July 2021
https://doi.org/10.1049/ell2.12269

 

【学会発表情報】
学会名:無線電力伝送研究会/電子通信エネルギー技術研究会 2020年10月7日(オンライン開催)
論文タイトル:ノーマリオフGaN HEMTを用いたレクテナ用ゲーテッドアノード型ダイオードの電気的特性
著者:高橋英匡・安藤裕二(名大)・土屋洋一・分島彰男(名工大)・林 宏暁・柳生栄治(三菱電機)・桔川洸一・坂井尚貴・伊東健治(金沢工大)・須田 淳(名大)        

 

【関連する学会発表情報】
学会名:マイクロ波研究会/アンテナ・伝搬研究会 2020年9月24日(オンライン開催) 
論文タイトル:先端短絡スタブ装荷ダイポールアンテナを用いる高効率レクテナ
著者:坂井尚貴・野口啓介・伊東健治(金沢工大) 

 

【連絡先】
名古屋大学 未来材料・システム研究所
特任教授 新井 学(あらい まなぶ)
TEL:050-3625-5455     
E-mail: marai@imass.nagoya-u.ac.jp

 

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