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従来の40倍を超える高解像度を実現する新奇ガンマ線望遠鏡を確立

未来材料・システム研究所《IMaSS》メンバーの中野敏行准教授六條宏紀助教、中村悠哉研究機関研究員らの研究グループが、エマルションフィルム(原子核乾板)を使った新しいガンマ線望遠鏡技術を確立し、従来の40倍を超える高解像度を実現しました。

本研究成果は、12月22日午前2時(日本時間)に米国科学誌『Astrophysical Journal』に掲載されました。



 

 

宇宙ガンマ線※1の観測はこれまで、宇宙線物理学、高エネルギー天体物理学、宇宙論、基礎物理学など、多岐にわたる学術領域に波及効果をもたらしてきました。さらに、近年のニュートリノや重力波も含めた「マルチメッセンジャー天文学※2」において、宇宙ガンマ線の研究はいっそう重要な役割を担っています。しかし、その観測の難しさから、他の波長帯に比べて桁違いに解像度が劣ることが課題となっています。

本研究グループは、優れた空間分解能を持つエマルションフィルムと、名古屋大学独自の高速読み取り技術等を活用し、これまでにない角度分解能を持つ、大型のガンマ線望遠鏡を開発するとともに、長時間気球飛翔を繰り返すことで宇宙高エネルギーガンマ線精密観測の実現を目指す「GRAINE計画※3」を推し進めています。地上でのさまざまな研究開発やテスト実験に加え、これまでに2011年、2015年、2018年の3回にわたり、オーストラリアで気球実験を実施し、この新奇ガンマ線望遠鏡の実現可能性を拓いてきました。

今回の研究成果は、2018年の気球実験で観測したデータを解析したものです。口径面積3800cm2のガンマ線望遠鏡を17.4時間飛翔させ、既知のガンマ線放射天体である「ほ座」パルサーから飛来するガンマ線を使って、望遠鏡の総合的な性能実証を目指しました。現像したエマルションフィルムのデータ解析は1年以上かかりました。その結果、従来の40倍を超える解像度で、パルサー天体からのガンマ線を捉えることに成功しました。

この実験の中心メンバーとして活躍した六條助教は

「本プロジェクトには、名古屋大学の若手研究者・院生らが中心メンバーとして実験準備、事前試験、気球打ち上げ、データ取得や解析に参加し、活躍しました。名古屋大学が独自に開発してきた原子核乾板の高速読取技術は、当初の開発目的である素粒子実験での利用を超え、現在、幅広い分野への応用が広がっています。今回の成果は、この技術の宇宙(天体)観測分野における新たな展開を可能にしました。」

さらに、

「宇宙研究において、新たな性能の測定器で観測を行うことは、宇宙の新しい性質の発見へと繋がります。今回確立したガンマ線望遠鏡を大型化した気球実験を2023年4月に実施し、現在データ解析を進めています。次なる観測結果にご期待ください!」

とコメントしています。

【論文情報】

タイトル:“First emulsion γ-ray telescope imaging of the Vela pulsar by the GRAINE 2018 balloon-borne experiment”, S. Takahashi et al., The Astrophysical Journal, Volume 960, Number1

DOI10.3847/1538-4357/ad0973

 

【用語説明】

※1 宇宙ガンマ線
 極めて高いエネルギーを持つ光子。本研究ではとくにサブGeV – GeV帯(GeVは10億電子ボルト)のエネルギーを持つ光子を指す。宇宙ガンマ線の波長は原子核サイズ以下となり、可視光やX線のように鏡などの光学系での集光や結像が原理的に難しい。宇宙ガンマ線と物質との相互作用は電子対生成反応が支配的であるため、電子対を捉えることでその発生源であるガンマ線の情報(到来時刻、到来方向、エネルギー、偏光)を測定する。したがって電子対を捉える能力がガンマ線観測の能力に直結する。〈本文に戻る〉

※2 マルチメッセンジャー天文学
 近年、超高エネルギーニュートリノや重力波の観測が実現し、多波長・多粒子での天文学は新たな時代の幕明けとなっている。このように多波長や多粒子での観測を組み合わせた天文学を「マルチメッセンジャー天文学」と呼ぶ。この中でガンマ線は決定的に重要なパートを担う。〈本文に戻る〉

※3 GRAINE計画(Gamma-Ray Astro-Imager with Nuclear Emulsion)
「世界最高角度分解能(1GeVで0.1度)」「世界初偏光有感」「世界最大口径面積(~10m2)」を実現するエマルション望遠鏡(10MeV – 100GeV)による長時間気球飛翔繰り返しでの宇宙高エネルギーガンマ線精密観測実験計画。愛知教育大学、岡山理科大学、岐阜大学、神戸大学、名古屋大学の研究者から構成される共同研究(実験代表:青木茂樹(神戸大学))。〈本文に戻る〉

 

【関連記事】

〇 2023.05.25 「世界最高解像度」「世界初偏光有感」「世界最大口径」望遠鏡による宇宙高エネルギーガンマ線の観測開始(https://www.imass.nagoya-u.ac.jp/research/20230525_nakano.html

 

 


 

◆名古屋大学 情報サイトはこちら>>>
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/12/40.html

◆名古屋大学のプレスリリース(本文)はこちら>>>
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20231222_imass.pdf


名古屋大学 F研 基本粒子研究室

https://flab.phys.nagoya-u.ac.jp/2011/

◆研究者連絡先
東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所
助教 六條 宏紀(ろくじょう ひろき)
E-mail : rokujo[at]flab.phys.nagoya-u.ac.jp