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製造プロセスの自動化を実現するAI制御アルゴリズムを開発
~浮遊帯域溶融法による結晶成長プロセス自動化へ~

 
本研究のポイント

 〇製造プロセスの自動化を実現するAI制御アルゴリズムを開発
 浮遊帯域溶融(Floating zone melting: FZ)法注1)による結晶成長プロセスの自動化をシミュレーションで実証
 〇自動操業結晶成長装置のプロトタイプ開発に着手

 

【研究概要】



 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の原田 俊太准教授は、株式会社Anamorphosis Networksとの共同研究で、製造プロセスの自動化を実現するAI制御アルゴリズムを開発しました。製造の現場では、装置の状態や環境に合わせて熟練者が手動で調整を行うプロセスが数多く存在し、自動化が困難な場合があります。
 原田 俊太准教授らの研究チームは、限られた操業データから内部状態の変化を推定するモデルを構築し、強化学習を応用して、人間でなければ難しかった操業を自動的に制御するアルゴリズムの開発に成功しました。現在、研究チームはこのアルゴリズムを実際の製造現場へと適用するために、結晶製造装置を製造する株式会社三幸と共同で、自動操業が可能な結晶成長装置のプロトタイプ開発に取り組んでいます。開発したアルゴリズムは、人が介在する様々な製造プロセスに応用することが可能であり、製造業のスマート化に貢献することが期待されます。
 本研究成果は、2023年7月31日に、International Conference on Crystal Growth and Epitaxy(ICCGE-20)において、招待講演として発表されました。

 

【研究背景と内容】



 AI技術は、自動運転からロボット制御まで、多くの分野で利用されています。製造業もその一つで、AI技術の導入によりスマート化への期待が高まっています。しかし、製造現場では、機器や環境の変化に対応するために熟練者がノウハウを活用して手動で作業を行っており、自動化への道のりは困難です。
 特に、半導体シリコンウエハの製造法である浮遊帯域溶融(Floating zone melting: FZ)法では、熟練のオペレーターが溶融帯を観察しながら状況に合わせて操業を行い、単結晶注2)の育成を行っています。FZ法は、棒状の原料の一部を高周波や集光加熱により溶融することで溶融帯を形成し、溶融帯の下部に形成する結晶を降下させることによって結晶を育成する方法です(図1)。結晶育成時には、溶融帯を観察しながら原料の降下速度と加熱出力を調整し、溶融帯を表面張力により保持します。また、単結晶育成のためにネッキングと呼ばれる口径制御を行う必要があり、溶融帯を保持しながらネッキングを行うためには、溶融帯の状態に合わせて結晶の降下速度や出力を適切に調整することが求められます。このような適応的な操業には経験や技術が必要であり、自動化への課題となっていました。

 

図1、光学式浮遊帯域溶融法の(a)模式図と(b)外観写真。

 


 原田 俊太准教授らの研究チームは、この問題を解決するために、限られた操業データから溶融帯の変化(ダイナミクス)を推定するモデルを構築し、強化学習注3)と呼ばれる機械学習手法を用いて制御するアルゴリズムを開発しました。開発されたアルゴリズムは、ネッキングを含む単結晶育成の操業軌道が類似していることや、限られた操業データから溶融帯の変化を推定する必要があることなど、製造プロセスのデータの特徴や制約を加味して設計されています。FZ結晶成長のシミュレーターを用いた実験では、手動で制御するよりも理想形状に近づけることが可能であることを実証しています(図2)。
 研究チームは現在、結晶製造装置メーカーの株式会社三幸と共同で、このアルゴリズムを実際の製造現場に適用するための装置のプロトタイプ開発に取り組んでいます。これにより、熟練者の技術を超えるAI制御モデルの構築を目指しています(図3)。

 

図2、(a)理想操業と機械学習制御により生成された操業による結晶径の時間変化の比較と、(b)手動制御により生成された学習データ。

 

 

図3、熟練の技を超えるAI制御モデルのイメージ。

 

 

【成果の意義】



 これまでは、熟練者の経験や感覚に依存していたFZ法による結晶成長プロセスを自動化することにより、シリコンウエハをはじめとする結晶材料の製造の安定化や、歩留まり注4) の改善、工場の省人化やスマート化に寄与することが考えられます。開発したアルゴリズムは、人が介在する様々な製造プロセスに応用することが可能であり、今後、技術の適用範囲を拡大することで製造業のスマート化に貢献することが期待されます。


  本研究は、日本学術振興会 科学技術研究費助成事業 基盤研究(B)(深層視覚運動学習による単結晶育成自動化の方法論の確立とその実証:21H01681)の支援のもとで行われました。

 

【用語解説】



注1)浮遊帯域溶融(Floating zone melting: FZ)法:

 棒状の原料の一部を溶融し、溶融帯を形成し、原料棒と結晶を降下させながら単結晶を育成する方法。融液部分を保持するための容器を用いないため、高純度の結晶育成が可能であり、シリコンウエハの製造にも用いられている。 本文に戻る)

注2)単結晶:
 結晶全体で結晶の方位が同一であるもの。これに対して、結晶方位の異なる多数の結晶粒からなるものを多結晶と呼ぶ。 本文に戻る)

注3)強化学習:
 変化する環境に合わせた最適な行動を繰り返しの試行から学習する機械学習手法の一つ。 本文に戻る)

注4)歩留まり :
 「投入した原料や素材に対する完成品の割合」や「生産数における良品の割合」などを意味する言葉。 本文に戻る)

 

【論文情報】


 
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Data-driven automated control algorithm for floating-zone crystal growth derived by reinforcement learning
著者:Yusuke Tosa, Ryo Omae, Ryohei Matsumoto, Shogo Sumitani, and Shunta Harada
DOI: 10.1038/s41598-023-34732-5
URL: https://doi.org/10.1038/s41598-023-34732-5


雑誌名:Science and Technology for Advanced Materials: Methods
論文タイトル:Prediction of operating dynamics in floating-zone crystal growth using Gaussian mixture model
著者:Ryo Omae, Shogo Sumitani, Yusuke Tosa, and Shunta Harada
DOI: 10.1080/27660400.2022.2107884
URL: https://doi.org/10.1080/27660400.2022.2107884

 

◆名古屋大学 情報サイトはこちら>>>
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/07/ai-9.html

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https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload/20230710_imass4.pdf


名古屋大学 宇治原研究室

https://ujihara.material.nagoya-u.ac.jp/

研究者連絡先

東海国立大学機構 名古屋大学
未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センター
准教授 原田 俊太(はらだ しゅんた)
E-mail : shunta.harada[at]nagoya-u.jp