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溶液1滴、1分でナノシート膜の自動製膜を実現、ナノシートの工業化に前進
~二次元ナノシートを用いた高速薄膜作製法を開発~

 
本研究のポイント

 〇酸化物、グラフェンなどの二次元物質を用いた高速薄膜作製法を開発。
 溶液1滴、1分で高品質なナノシート注1)膜の大面積製膜を実現。
 〇専門的な知識、技術の必要がなく、ワンクリックで自動製膜。

 

【研究概要】



 東海国立大学機構名古屋大学未来材料・システム研究所の長田 実(おさだ みのる) 教授、
施 越(し えつ) 研究員らの研究グループは、酸化物、グラフェン、窒化ホウ素などの二次元物質(ナノシート)を、1分程度の短時間で基板上に隙間なく配列して、薄膜を作製する新技術「高速薄膜作製法」を開発しました。
 本技術は、自動ピペット 注2)を利用することで、専門的な知識、技術の必要がなく、ワンクリックで高品質なナノシート膜の大面積製膜が可能であり、ナノシートの各種デバイスの工業的製造に向けた重要な技術に発展するものと期待されます。
 本研究成果は、2023年3月31日付アメリカ化学会材料科学誌「ACS Applied Materials & Interfaces」オンライン版に掲載されました。

 

【研究背景】



 グラフェンや無機ナノシートなどに代表される二次元物質(ナノシート)は、高い電子・イオン移動度、高誘電性、透明性、高耐熱性など、従来のバルク材料注3)とは異なる機能の発現が期待され、エレクトロニクス、エネルギー分野での応用が期待されています。こうした優れた機能を最大限に引き出してデバイス化するためには、ナノシートを様々な基板表面に稠密ちゅうみつ配列注4)し、薄膜を作製することが重要となります。今までは、薄膜製造のため「ラングミュア・ブロジェット」注5)などが適用されていましたが、熟練した操作、複雑な条件設定が必要であることに加えて、1層の製膜に1時間程度を要するため、これらがナノシート応用の大きなネックとなっていました。これらの課題を解決し、ナノシートのデバイス開発、工業化を推進するためには、ナノシートの高品質稠密配列膜を簡便かつ短時間で実現する新プロセスの開発が強く求められていました。

 

【研究成果】



 本研究では、新規製膜技術を検討する中で、自動ピペットを使って、酸化物、グラフェン、窒化ホウ素などのナノシートのコロイド水溶液を基板に1滴滴下した後、それを吸引するという簡便な操作により、ナノシート同士が隙間なく稠密に配列し、約1分という極めて短時間で稠密配列単層膜の自動製膜に成功しました(図1)。
  この自動製膜による最適製膜条件、製膜機構の検討を行ったところ、エタノールを1~2%添加した希薄コロイド水溶液(濃度:0.02~0.05 g/L)の利用が好適であり、コロイド水溶液の表面張力の低減、ナノシートの対流の促進により、ナノシート間の重なり、隙間の発生が抑えられ、効率的な配列制御が実現することが明らかとなりました。さらに、稠密配列単層膜作製の操作を繰り返すことで、ナノシートの厚み単位で制御された多層膜のレイヤーバイレイヤー構築が可能であることも確認しました。
 本技術は、酸化物、グラフェン、窒化ホウ素など、様々な組成、構造のナノシートに適用可能であり、かつ様々な形状、サイズ、材質の基材上に製膜できることが確認できており、極めて汎用性の高い製膜技術といえます。また、本技術は、自動ピペットによる簡便な滴下・吸引操作を基盤としており、専門的な知識、技術の必要がなく、ワンクリックで、4インチのウエハーサイズの大型製膜、少数ロットのオンデマンド自動製膜なども可能となります。

 

【研究成果の意義と今後の展開】



 今回開発した手法は、簡便、短時間、少量の溶液で、高品質稠密配列膜の大面積製膜を実現できるため、製造コストも大幅に削減でき、ナノシートの工業的な薄膜製作法、ナノコーティング法として重要な技術に発展するものと期待されます。


 本研究は、JSPS科学研究費補助金事業 基盤研究(S)、NEDOエネルギー・環境新技術先導研究プログラム、JST研究成果最適展開支援プログラム (A-STEP)、文部科学省国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出プロジェクト (DEJI2MA)の支援のもとで実施されました。

 

図1.二次元ナノシートの高速・液相製膜.
(a)自動製膜装置の全体写真.(b)自動製膜装置の製膜風景.
(c)酸化チタンナノシートの製膜結果.(左)1インチSi基板上に製膜したナノシート単層膜の光学写真.(右)原子間力顕微鏡による膜質評価.ナノシートがトランプを並べるように緻密に配列していることがわかる。

 

【用語解説】



注1)ナノシート
原子1層、数層からなる物質。代表する物質としては、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)、酸化物ナノシートなどがある。 本文に戻る)

注2)自動ピペット(分注機)
化学、ライフサイエンス分野の研究や検査において、ピペットで検体や試料となる液体を一定容量吐出する装置。 本文に戻る)

注3)バルク材料
サイズがμm以上の大きな結晶。単結晶、粉体、セラミックスの形態として得られ、実用化されている。他方、一辺のサイズがnmオーダーの微量な結晶をナノ結晶と呼び、ナノサイズに起因した特異な物性、化学反応性が発現する。本研究で対象とするナノシートもナノ結晶の一種。 本文に戻る)

注4)稠密ちゅうみつ配列
ナノシートを隙間や重なりを生じさせることなく、トランプを並べるように秩序正しく配列している状態。ナノシートの優れた機能をフルに引き出し、デバイス化するためには、こうした稠密配列膜の不可欠となる。 本文に戻る)

注 5)ラングミュア・ブロジェット(Langmuir-Blodgett)法
気−液界面でナノシートなどのナノ粒子を集積し、薄膜を作製する方法。 ナノシートのコロイド溶液をトラフと呼ばれる浅いプールに展開し、気−液界面に拡がったナノシートをバリヤーで圧縮後、固体基板に転写することでナノシートがタイルのように基板表面に隙間なく被覆した単層膜を得ることができる。この手順で分子層1層に相当するナノシート1層の製膜が可能であり、この操作を繰り返すことで、1 nm単位で膜構造、組成を精密に制御した超薄膜を作製することができる。 本文に戻る)

 

【論文情報】


 
論文誌:ACS Applied Materials & Interfaces
論文タイトル:Automated One-Drop Assembly for Facile 2D Film Deposition
著者:Yue Shi (名古屋大学 研究員), Eisuke Yamamoto (名古屋大学 助教), Makoto Kobayashi (名古屋大学 准教授), Minoru Osada (名古屋大学 教授)

DOI: 10.1021/acsami.3c02250
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.3c02250

 

名古屋大学 長田 実研究室
http://mosada-lab-nagoya.com/


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研究者連絡先

東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所
教授 長田 実(おさだ みのる)
E-mail : mosada[at]imass.nagoya-u.ac.jp