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研究グループ紹介

大野雄高 研究室

透明テープのようなやわらかデバイス!
エネハベ半導体デバイスの活躍に期待大!

フレキシブルで透明なオールカーボンTFT(=Thin Film Transistor)とIC(=integrated circuit。集積回路)。フレキシブルPEN(=ポリエチレンナフタレート)基板上に作製したオールカーボンデバイスの写真

人と親和性のあるバイオセンサや機能集積回路などのウェアラブルデバイスの実現を目指す大野研究室のみなさん

 「え、これが半導体デバイス?」と、思わず声に出てしまったほど、大野研究室で研究されているデバイスは薄くて柔らかい。半導体の機能はどうなっているのでしょうか。謳われている「人との親和性」ってどういうことなのでしょう?カーボンナノチューブ(CNT)はどこでどう使われているのでしょう?

 

カーボンナノチューブって?
—–  まず、カーボンナノチューブについて教えてください。

大野 炭素(C、カーボン)原子同士が、ハチの巣のように六角形の頂点上に配置され強く結びついた、原子1個分の厚さしかない物質のことを「グラフェン」と呼ぶのですが、そのグラフェンが細~く円筒状(直径:0.4~50ナノメートル*1)に丸まっているものが「CNT」です。カーボンって、軽い上に引っ張り強度や、熱伝導の良さは何よりも優れていて、電子がすごく速く走る大変良い材料なんです。

—– CNTは、どういう場所で使うのに向いているんですか?

大野 今我々がやっているのは、フレキシブルデバイスと言って、透明で、伸びたりしながら体に貼り付けられるようなものです。そういう柔らかさというのはこれまでの半導体では出せない機能なんです。人間とエレクトロニクス、半導体はこれからどんどん融合していきます。要するにサイバー空間と実際に人間が生活している空間と繋がっていくので、柔らかいデバイスっていうのは絶対必要になってきます。そういうところがターゲットです。

—– 海外ですと、人間の体の中にデバイスを入れたりしていますよね。

大野 日本では身体の中って結構難しくて、いろいろな許可が必要なんです。でも表面は薬事法などの規制がありませんし、表面でも汗をどれだけ掻いたから水分や塩分を摂らないといけないよとか、ちょっと疲れてるよとか、いろんな情報が取れますし、病気を発見することもできます。まずはそういった情報を取ることのできる、人間の肌の表面についてくるような、表皮デバイスを考えています。

大野 雄高 教授

《プロフィール》
1999年 日本学術振興会特別研究員 2000年 名古屋大学博士課程修了(工学)、同大 助手 2003年 科学技術振興機構さきがけ研究員(兼任 2007年まで) 2008年 同大 准教授 2012年 フィンランド・アアルト大学 客員教授(兼任) 2015年 名古屋大学 教授 2018年 先端技術研究施設 施設長(兼任 2019年まで) 2020年ベンチャービジネスラボラトリー ラボ長(兼任 2022年まで)
●趣味・好きなこと/スキー、登山、音楽鑑賞、読書。楽器はピアノ、バイオリンなど(何でもやります)。お酒。子供の頃は、物を壊す(分解する)ことが好きでした(笑)

人との親和性を重視

—– ウエアラブルデバイスの進化系ですね。絆創膏みたいなイメージなのでしょうか。

大野 サイバー空間との融合を深めるためには、人間にいろいろなセンサーを付けることになるんですけれど、透明で薄くて軽くて柔らかければ、貼っていることへの抵抗があまりありません。ニーズとしては健康医療という分野もありますし、スポーツでも当然そういうことは大事になってきます。人間が筋肉を動かそうとした時に筋電位が発生するんですけれど、スポーツ選手だと、すごく大事なところにはちゃんと力が入って、大事じゃないところはリラックスしてるっていう状態ができているんです。運動音痴の人や、例えば楽器演奏が下手な人もそうなんですが、余分なところに力が入ってるんですよね。そういうことが全部可視化できるんですよ。

—– そういったフレキシブルなデバイスのことを「人との親和性」があると表現されているんですね。

大野 はい。でも本当にやりたいのは、そこに薬を自動で注入するような、医療にも応用が利くもの。例えば、糖尿病の人は血糖値が下がると倒れてしまうから、糖分を摂るとか注射を打つとかしますよね。そういったリスクを持った方たちの心配ごとや、それに伴う行動制限に自動で対処するような状態を目指していきたいんですけどね。それはまだ先の長い話かもしれないです。

—– より広く浸透させるためにはコストも重要課題かと思いますが。

大野 CNTは、元は炭素ですし、安く大量に作れる技術が確立できています。ですがデバイスとして実用化するにはまだまだ材料、デバイスの基礎的な研究が必要です。ですが随分できるようにはなってきていて、例えばセンサー用の集積回路はCNTで全部できるようになって、随分安定するようになってきています。 

自家発電するデバイス?
—– 次のステップとして、システムを構築してさらにエネルギーハーベスト*2しようと。

松永 はい、小さなエネルギーを集めて発電する、エネハベが僕の現在の研究テーマです。肌に張り付けるようなデバイスを作った時に、電源どうするのということですね。だらんと線をつなぐ訳にはいかないですし、どうせなら周囲から使えるエネルギーを集めて、システムを動かせるように発電しようという。

—– 何もないように見えるところから発電するヒントをどのように得たのでしょう。

松永 最初は、流体発電と言って、水がCNTの表面に触れることによって発電しようっていうテーマがあって、僕もそこからのスタートでした。でも、実際にやってみると「水の流れによる発電」では説明ができないような大きなパワーが出たんです。なぜかなって考えてみたところ、摩擦帯電が原因とわかり、そこで初めて、僕が今やっている摩擦帯電のエネハベですね、振動発電に出会って、そっちの方向に進んだという感じです。

—– 今はどんな状況ですか?

松永 エネハベって、例えばウエアラブルデバイスの電源として使おうとすると、まだまだ出力が足りないんです。例えば腕に貼るとすると、曲げ伸ばしですごく運動しないといけないので、そう考えると人の足の裏に貼るっていうのが一番やりやすいんですが、人の動きに適したものといいますか場所も考えないといけない。ですのでデバイス単体のパワーを上げたいっていうのも一つですし、ウエアラブル用の電源としてというよりもまずはパワーを上げることが必要ですね。

松永 正広 助教

《プロフィール》
2017年 千葉大学大学院融合科学研究科 博士課程修了。博士(工学)。同年 名古屋大学ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー 中核的研究機関研究員。 2019年より現職。
●趣味・好きなこと/中学からバドミントンをやっています。現在も教職員のバドミントン同好会に参加してリフレッシュしています。どちらかと言えばインドア派ですが身体を動かすことは好きです。

作りは非常にシンプル

—– 発電するシートってどんな作りなんですか?

松永 PDMS(ポリジメチルシロキサン(dimethylpolysiloxane))っていう、透明のゴムの中にCNTの電極が1個入っているだけです。本当にシンプルな構造です。一番シンプルなのは、ゴムの中にCNTが1層、40nmくらいの厚さに(ネットワークした)CNTが、大体8590%くらいの濃さで入っています。普通に触るだけで発電します。

—– これで発生するエネルギーで、デバイスを動かしたり情報を飛ばしたりできたらすごいですよね。

松永 CNTって、普通に作っちゃうと、7:3で半導体と金属が入ってたりするんで、デバイスに使おうとすると、半導体だけをうまく分離したりとかっていういろんな課題があったりするんですけど、電極で使う時はそういう課題に目をつぶることができて、透明にできるとか、伸縮性を持っているとか、あとは耐久性に強いとか、簡単に作れますよとか、そういうメリットは生かせると思います。

 

  • 発電する電極シート作成中

  • CNTの溶液をサーッとスプレーコートするだけで…

  • 完成!(透明なので見た目の変化はありませんが)

オールカーボンのデバイス
—– 内山先生は、大野研究室出身だそうですが、学生の時はどんなことを?

内山 学生の時は、CNTとダイヤモンドを使いながら、量子情報処理用のデバイスを作ろうと研究をすすめていました。それは博士の時の研究で、一旦区切りついたので、新しい材料をやろうとポスドクで東大に移り、「二硫化モリブデン」という比較的新しい2次元材料(原子層の厚みの材料)を使ってデバイスの作製をやっていました。

—– 今はどんなことに取り組んでいますか?

内山 今はCNTに戻り、そういう2次元材料も使って、フレキシブルなデバイス(=トランジスタ)を集積化して、回路やシステムを作りたいなと思っています。例えば脈拍を取ることができるようなものであったり、心電図を測定するようなシステム。心電図のパターンから異常を検出して、早く病院へ行った方がいいよといった情報を取れるようにしたいなとも思っています。

—– デバイスをオールカーボンで作る時に工夫されている点はどこですか?

内山 CNT自体は薬品耐性なんかも十分あるので、他の有機材料に比べると、圧倒的にプロセスはやりやすいです。ただ、ヒステリシス*3って言って、CNTの表面の水なんかは、そういった影響がCNT自身の電気的特性に大きくきいてくるので、できるだけCNTの表面をきれいにしながら作るっていう部分が一番重要かなと思っています。最近は、パリレン*4なんかでふたをしてから、しっかり励起することでヒステリシスを低減できるようになってきているところです。

ウエアラブルデバイス

内山 晴貴 助教

《プロフィール》
2021年3月 名古屋大学工学研究科電子工学専攻 博士課程修了 博士(工学)。同年4月東京大学大学院工学系研究科マテリアル工学専攻 特任研究員。2022年5月より現職。
●趣味・好きなこと/散歩、実験、その他いろいろ(水泳、自転車等)。これまで自分が見たことのないものを発見することが好きです。最近身体を動かす機会が減ってきたので、水泳を再開する予定です。

プリンターで作れる手軽さ!

—– デバイスをオールカーボンで作れたらどんな利点がありますか?

大野 柔らかくなるっていうこともありますし、貴金属類が何も要らなくなります。CNTって、実はプリンターでものづくりができるんです。印刷するだけで集積回路が、もうすでにできるようになってきていますよ。ですので安く、どこでも作りたいものがカスタマイズして作れるとか、いろんなメリットがあるんです。きっと5年後くらいにはそういうレベルになっていくんじゃないでしょうか。

フレキシブルな高性能カーボンナノチューブ集積回路

—– 大変幅広く研究されてきたと聞きました。

大野 物性物理から材料を創るところ、それからデバイスですとか集積回路とか、実は随分幅広~く研究しているんですが、それが実は今結構生きている感じがしています。特にこのCNTっていう新しい材料を使って、世の中で使えるデバイスにしようとした時に、デバイスの知識だけでは全然足りないし、回路の知識もシステムの知識も必要だし、新しい材料だから、実はいろんな材料自体がパーフェクトではないんですね。

—– まだまだ開拓していく感じなんですね。

大野 そうですね、興味を持って、集中してじっくり考えたり思いを巡らしたり、そういう時間ってすごく大事。何かやり始めたときに、あ、これ面白い、こんなのもあるかもしれないって興味を持ってやっていると、新しいアイディアが出るんですね。そんな時間を共有できる仲間との無駄に思える会話の時間も。そこがやっぱり、大学の研究では特に大事だと思います。

【用語解説】

※1 ナノメートル
1nm(ナノメートル)=0.001μm(マイクロメートル)=0.000001mm。すなわち、1nmは、1mmの100万分の1(↑本文へ戻る

※2 エネルギーハーベスト
エネルギーハーベスティング、エネハベ。光、振動や熱などのごくわずかなエネルギーを収穫(=ハーベスト)して電力に変換し、活用することを目的とする技術。(ハーベスト=収穫)(↑本文へ戻る

※3 ヒステリシス
あるシステムの状態が、現在加えられている力だけでなく、過去に加わった力に依存して変化すること。履歴現象、履歴効果とも呼ぶ。(↑本文へ戻る

※4 パリレン
Parylene(化合物)。パリレンは、主鎖がパラベンゼンジイル環からなるポリマーの一般名↑本文へ戻る

文:IMaSS広報委員会(池永英司、小西雅代) ~『IMaSS NEWS Vol.13』特集より抜粋