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透明ナノシートで高感度・超小型光センサーを実現
宇宙・車載向け応用に期待、スマホカメラもさらに進化へ


《本研究のポイント》


  • ガリウムをドープした酸化亜鉛(ZnO)注1)をベースとした透明導電体注2)ナノシート注3)を開発
  • ナノシートにより、従来材料の課題である高透明性と高感度可視光検出を同時実現
  • 赤・緑・青(RGB)の色情報を1ピクセル内で識別可能な「オールインワンRGBフォトディテクタ注4)」を構築
  • 400℃の高温環境下においても安定動作
  • 宇宙、車載、高放射線環境などの極限環境で動作する次世代光デバイスへの応用


【研究概要】


 名古屋大学未来材料・システム研究所のルベン・カントン-ビトリア 事業客員研究者(大阪大学 接合科学研究所 助教)、ビビッド・ミーラブ 博士前期課程学生、長田 実教授らの研究グループは、ガリウム(Ga)ドープ酸化亜鉛(ZnO)をベースとした透明導電体ナノシートを用いることで、高透明性・高感度可視光検出・高耐熱性を同時に実現した高性能フォトディテクタの開発に成功しました。

 光を電気信号へ変換するフォトディテクタは、IoT、光通信、監視カメラ、ナイトビジョン、生体イメージングなどを支える重要デバイスです。しかし従来技術では、検出波長域の制限に加え、毒性元素や希少金属の使用、高温プロセス・複雑な微細加工の必要性、高温環境での動作安定性の低さなどが課題となっていました。

 今回、研究グループは、原子レベル厚さの二次元物質(ナノシート)に着目し、高透明性と優れた耐酸化性を有するZnOナノシートにGaドーピングを施すことで、電子状態を制御した透明導電性ナノシートを開発しました。その結果、毒性元素や希少金属を用いることなく、高透明性と高感度可視光検出を両立しました。さらに、室温溶液プロセスを用いて異なる波長域に応答する光フィルタを垂直積層することで、単一画素内で赤・緑・青(RGB)光を同時識別可能なオールインワンRGBフォトディテクタを実現しました。加えて、本デバイスは大気中400 ℃の高温環境下でも安定動作を維持し、優れた耐熱性・耐酸化性を示しました。

 本成果は、「透明性」「高感度」「高耐熱性」を兼ね備えた革新的なフォトディテクタを実現するものであり、宇宙、車載、高放射線環境などの極限環境で動作する次世代光デバイスへの応用が期待されます。

 本研究成果は、2026年5月18日付米国化学会科学誌「ACS Nano」のオンライン速報版に掲載されました。

【研究背景】


 フォトディテクタは、スマートフォンカメラ、IoTセンサ、光通信、医療診断など、幅広い分野で利用されている重要な光電子デバイスです。現在主流の半導体材料では、紫外線、可視光、赤外線など、それぞれの波長域に応じて異なる材料を使い分ける必要があり、デバイス構造の複雑化や製造コストの増大が課題となっていました。

 こうした課題を解決する新技術として、二次元物質(ナノシート)の優れた特性とプロセスが近年大きな注目を集めています。特に、半導体ナノシートは、極薄・軽量・柔軟という特徴に加え、量子閉じ込め効果に由来する特異な光電子特性を示すことから、次世代フォトディテクタ材料として期待されています。一方で、従来の半導体ナノシートは紫外光に対して高感度を示すものの、可視光に対する応答性が低く、カラーイメージングへの応用には課題がありました。

【研究成果】


 今回、研究グループは、高い透明性と優れた耐酸化性を有する酸化亜鉛(ZnO)ナノシートに着目し、Gaドーピングによる電子状態制御と可視光応答性の向上を試みました。GaドープZnO(GZO)ナノシートの合成には、水面でシャボン膜が形成するように、気液界面で薄い結晶膜の合成を行う「イオン層エピタキシー法」を利用し、結晶の成長過程でGa3+イオンを導入することで、Gaドープ量の精密制御を実現しました(図1)。その結果、ナノシート1枚あたり平均99.995%というほぼ完全透明で高い可視光透過性を維持しつつ、高い電子移動度(1.94 cm2/V・s)と極めて高い可視光応答性(最大800 A/W)を併せ持つ新しい透明導電体ナノシートの開発に成功しました(図2)。

 

図1. GZOナノシートの合成スキーム.

GZOナノシートは、気液界面で薄膜結晶を形成するイオン層エピタキシー法を用いて合成した。酢酸亜鉛と硝酸ガリウムを所定比で混合し、界面活性剤を添加することで、水面上に形成された界面活性剤単分子膜を利用して、自立型ZnOおよびGZOナノシートを成長させた。

 

図2.透明導電膜GZOナノシートの透過特性と光応答性.

(上)GZOナノシートの透過特性。可視光領域 (380-780 nm)の平均可視光透過率を評価したところ、未ドープZnOナノシートでは93.6%、10%ドープGZOナノシートでは97.9%であり、Gaドーピングによる透過率向上が確認された。膜厚からGZOナノシート1枚あたり平均可視光透過率を換算したところ、99.995%というほぼ完全透明で高い可視光透過性を示した。

(下)GZOナノシートの光応答性。Gaドーピングにより可視光応答性が向上し、可視光において高い可視光応答性(最大800 A/W)を確認。

 

 

 この透明導電体ナノシートを基盤として、超薄膜フォトディテクタを構築しました(図3)。ナノシートは室温溶液プロセスにより容易に積層できるため、異なる波長域に応答する光フィルターを垂直方向に積層することで、赤・緑・青(RGB)の光を単一画素内で識別可能なBayer配列型注5)フォトディテクタを構築しました。このフォトディテクタを用いて画像記録実験を行いました(図4)。元画像には「ムンクの叫び」を用い、入力用として10×10ピクセル画像を作成しました。さらに、フォトディテクタから取得したRGB信号を基に画像を再構成し、市販カメラで撮影した画像と比較しました。その結果、本デバイスがカラー画像を高精度に再現できることを確認しました。また、フォトディテクタの耐久性評価を行ったところ、本デバイスは大気中400 ℃という高温環境下においても安定した光応答を維持し、優れた耐熱性・耐酸化性を示しました。

 

図3.オールインワンRGBフォトディテクタ.

(左)デバイス構造の模式図。(右)フォトディテクタの動作原理。
異なる波長域に応答する光フィルターを垂直方向に積層することで、赤・緑・青(RGB)の光を単一画素内で識別可能。

 

図4.フォトディテクタを用いた画像記録実験(10%ドープGZOを利用).

(上)元画像には「ムンクの叫び」を用い、フォトディテクタ入力用として10×10ピクセル画像を作成。
(下)フォトディテクタのRGB信号を基に再構成した画像と市販カメラで撮影した画像との比較。本デバイスがカラー画像を高精度に再現できることを確認。

【成果の意義】


 今回の成果は、「高透明性」「高感度」「高耐熱性」を兼ね備えた新しい超薄膜フォトディテクタを実現したものです。今後、イメージセンサ、高密度カラー撮像素子、フレキシブル透明デバイスに加え、宇宙、車載分野などの極限環境で利用可能な高耐久センサや、高温・高放射線環境対応イメージングシステムへの応用が期待されます。

 本研究は、ナノシートを活用した「単一画素多機能化」という新しいデバイス設計概念を提示するものです。従来の多画素化・複雑化による高機能化とは異なり、今回のデバイスでは、単一画素内に複数の光検出機能を集積することで、デバイスの小型化・高集積化・高性能化を同時に実現できます。また、本デバイスは室温溶液プロセスにより作製可能であり、高温プロセスや複雑な微細加工を必要としないことから、製造工程の大幅な簡略化と低コスト化が期待されます。以上、本成果は、次世代光電子デバイスの高集積化・高機能化に向けた新たな設計指針を拓くものと期待されます。

 本研究は、科学技術振興機構(JST)研究成果最適展開支援プログラム「近赤外反射原子膜による高性能日射遮蔽エコガラスの開発(代表者:長田 実)、JPMJTR23TA」、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金・基盤研究(S)「原子膜技術による革新的蓄電デバイスの創成(代表者:長田 実)、JP21H05015」、科学研究費補助金・挑戦的研究(萌芽)「酸化物原子膜による革新的エピタキシー技術の創成(代表者:長田 実)、JP23K17956」、文部科学省・国際・産学連携インバースイノベーション材料創出プロジェクト(DEJI2MA)、未来材料・システム研究所共同利用・共同研究プログラム、未来材料・システム研究所萌芽的共創研究などの支援を受けて行われました。

 

【用語説明】


注1) 酸化亜鉛(ZnO)
 約3.4 eVの広いバンドギャップを持つワイドギャップ半導体。優れた紫外線(UV)応答性と高い化学的安定性を有し、UVフォトディテクタに広く利用されている。 (↑ 本文に戻る)

注2) 透明導電体
 電気を通す性質と可視光を透過する透明性を兼ね備えた材料。ガラスやフィルムの表面に成膜して使用され、スマートフォンやPCのタッチパネル、液晶ディスプレイ、太陽電池などに不可欠な基幹材料として広く活用されている。代表的な材料に、ITO(インジウム・スズ酸化物)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、IGZO(インジウム・ガリウム・亜鉛酸化物)がある。 (↑ 本文に戻る)

注3) ナノシート
 原子1層、数層からなる物質。代表する物質としては、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)、酸化物ナノシートなどがある。 (↑ 本文に戻る)

注4) オールインワンRGBフォトディテクタ
 単一の素子・単一画素内で赤(R)、緑(G)、青(B)の光を同時に識別・検出できる光検出デバイス。従来のようにRGBごとに異なるフィルタや複数の受光素子を必要とせず、小型化・高集積化・高解像度化を実現できる点が特徴。 (↑ 本文に戻る)

注5) Bayer配列型
 赤(R)、緑(G)、青(B)のカラーフィルタを画素ごとにモザイク状に配置した撮像方式であり、一般的なデジタルカメラやスマートフォンに広く用いられている。通常は緑画素を多く配置(RGGB配列)し、人間の視覚特性に合わせて高い色再現性と解像度を実現する。一方で、複数画素とカラーフィルタが必要となるため、微細化や高集積化には限界がある。 (↑ 本文に戻る)

 

 

【論文情報】


論文誌 :ACS Nano

タイトル:Highly Transparent Gallium-Doped Zinc Oxide Nanosheets Enabling Stable All-in-One Red-Green-Blue Photodetectors with High Responsivity

著者:

Vivid Meelab(名古屋大学大学院工学研究科応用物質化学専攻・修士課程2年)
Ruben Canton-Vitoria(名古屋大学未来材料・システム研究所・研究員、大阪大学接合科学研究所・助教)責任著者
Mohammad Furqan(サラゴサ大学・博士研究員)
森田佳典(研究当時、名古屋大学大学院工学研究科応用物質化学専攻・修士課程2年)
森田 秀(名古屋大学未来材料・システム研究所・特任助教)
山本瑛祐(名古屋大学未来材料・システム研究所・助教)
小林 亮(名古屋大学未来材料・システム研究所・准教授)
Raul Arenal(サラゴサ大学・教授)
長田 実(名古屋大学未来材料・システム研究所・教授)責任著者

DOI: 10.1021/acsnano.6c04352
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsnano.6c04352

 

【研究者連絡先】


名古屋大学 未来材料・システム研究所
教授 長田 実(おさだ みのる)
長田研究室 https://mosada-lab-nagoya.com/
E-mail: mosada[at]imass.nagoya-u.ac.jp ※ [at]を@マークに置き換えてください