Information & Topics

Information

ニュース

プレスリリース

原子の整列か、膜の崩壊か
― FePd磁性薄膜の相転移と形態進化を支配する結晶成長の法則を解明―

《研究のポイント》


  • 次世代高記憶密度磁気デバイス材料として期待されるFePd薄膜において、高性能化に必要な「原子の整列(規則化)」と、材料が劣化する「膜の崩壊(デウェッティング)」が互いに競合するメカニズムを解明しました。
  • これまで性能低下が課題であった「魔の中間温度域(300~400℃)」において、積層欠陥やナノサイズの空隙が発生する原因を、理論計算と原子レベルの観察により明らかにしました。
  • この発見により、高品質なFePd薄膜を安定して製造するための「最適な温度と時間のレシピ」が明確になり、超高密度ストレージや省電力デバイスの実現が加速します。

 

図1  FePd薄膜におけるL10規則化とデウェッティングの競合模式図(論文中の図7より一部引用)
(図の説明) 本研究で明らかにした、温度上昇に伴う膜の状態変化であります。(左)図1(a)中間温度では膜の中にナノサイズの「穴」や「結晶の乱れ」が生じて品質が低下しますが、条件を最適化すると(中央)図1(b)高温時のように原子が完璧に整列した高品質な膜が得られます。さらに加熱すると、(右)図1(c)のように膜がバラバラに崩壊してしまいます。この「整列」と「崩壊」の絶妙なバランスを制御する法則を今回解明しました。

 

【研究概要】


 富山大学学術研究部工学系(兼務:名古屋大学未来材料・システム研究所)の永沼博教授は、テルアビブ大学(イスラエル)、神戸大学、パリサクレー大学(フランス)、フランス国立科学研究所(フランス)との共同研究により、次世代の高密度磁気記録材料と期待されているFePdのL10規則合金※1)薄膜の結晶成長プロセスにおいて、原子の並び(L10規則化)と膜の形状変化(デウェッティング)が互いに影響し合う「速度論的競合」を明らかにしました。 本研究成果は、高度な透過型電子顕微鏡観察による構造解析、および第一原理計算※2)を組み合わせることで、特定の温度帯で発生する材料欠陥の正体を突き止めたものです。これにより、デバイスの微細化・高性能化を阻む物理的障壁を打破する道が拓かれました。 本研究成果は、本成果の一部は、科学研究費助成事業(No. 23H03803, and No. 24K01346)、名古屋大学 研究大学強化促進事業・最先端国際研究ユニットの支援により行われ、材料科学分野の学術誌である「Acta Materialia」に 2026年5月11日(月)(日本時間)に掲載されました。

 

【研究の背景】


 L10規則構造をもつFePd合金は、高い結晶磁気異方性を有するため、ハードディスクの超高記録密度化や次世代の不揮発性磁気メモリ(MRAM)の鍵となる磁性材料であります。しかし、基板上に極めて薄い膜として形成する際、加熱によって原子を整列させようとすると、同時に膜自体が表面張力で丸まってバラバラに壊れてしまう「デウェッティング(dewetting)※3)という現象が起きることが大きな課題でした。特に、300℃から400℃の間で磁気性能が低下する原因は、これまで十分に解明されていませんでした。

 

【研究の内容・成果】


 本研究では、温度を変えて作製したFePd薄膜の原子配列を詳細に解析しました。その結果、以下の点を明らかにしました。

1. 「魔の温度域」の特定: 300~400℃では、原子が整列しようとする力と、表面拡散によって膜が凝集しようとする速度が拮抗し、膜内部に多数の「積層欠陥(マイクロツイン)」や「ナノサイズの穴(空隙)」が発生することを突き止めました。

2. 理論と実験の整合: 第一原理計算により、これらの欠陥が熱力学的にどのように発生するかを証明し、透過型電子顕微鏡による原子スケールの観察結果と一致することを確認しました。

3. 単一バリアントの実現: 特定の成長条件を選択することで、結晶の向きが完璧に揃った(単一バリアント)高品質な膜を、崩壊させずに作るための「プロセス窓」を特定しました。

 

【今後の展開】


 今回の知見により、FePd薄膜をデバイスに組み込む際の最適な熱処理条件が明確になりました。今後は、本研究で得られた成長指針を元に、さらに薄く・均一になる膜構造およびナノドット構造の制御や、電力消費を極限まで抑えた次世代スピントロニクスデバイスの研究開発を進める予定です。本成果は、持続可能な高度情報化社会を支える超省エネ・高容量ストレージ技術の基盤となることが期待されます。

 

【用語説明】


※1) L10規則合金
 2種類の金属原子(鉄とパラジウム)が交互に規則正しく層状に並んだ構造を持つ合金。非常に強い磁石の性質(高い垂直磁気異方性)を持つため、次世代メモリ材料として注目されている。 (↑ 本文に戻る)

※2) 第一原理計算(First-principles calculation)
 物質の組成と結晶構造などの情報をもとに量子力学の基本原理にもとづいて材料の特性を予測するシミュレーション手法であり、今回は合金の表面エネルギーの理論予測に利用した。 (↑ 本文に戻る)

※3) デウェッティング(Solid-state dewetting)
 均一な薄膜が熱によって不安定になり、表面張力で島状に凝集してバラバラになる現象。デバイスの平坦性を損なうため、通常は抑制すべき現象とされる。 (↑ 本文に戻る)

 

【論文情報】


タイトル:Epitaxial FePd thin films on SrTiO3(001): Kinetics of single-variant L10 ordering and solid-state dewetting

著者:Hanuma Kumar Dara, Samuel Vergara, Amram Azulay, Mitsuharu Uemoto, Tomoya Ono, Sem¨en Gorfman, Ilan Goldfarb, Hiroshi Naganuma, Amit Kohn

掲載誌:Acta Materialia

DOI: 10.1016/j.actamat.2026.122333


◆名古屋大学 研究成果発信サイトはこちら>>>

◆名古屋大学のプレスリリース(本文)はこちら>>>

 

【研究者連絡先】


名古屋大学 未来材料・システム研究所
客員教授 永沼 博(ながぬま ひろし)
(水口研究室 https://www.imass.nagoya-u.ac.jp/about/staff/?id=anchor-149
E-mail: naganuma.hiroshi.j2[at]f.mail.nagoya-u.ac.jp ※ [at]を@マークに置き換えてください