
株式会社オキサイドパワークリスタル(本社:山梨県北杜市、代表取締役社長:古川 保典)、Mipox株式会社(本社:栃木県鹿沼市、代表取締役社長:渡邉 淳)、株式会社UJ-Crystal(本社:愛知県名古屋市、代表取締役社長:宇治原 徹)、アイクリスタル株式会社(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:髙石 将輝)、国立研究開発法人産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センター(チーム長:児島 一聡)、ならびに国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 未来材料・システム研究所(教授:宇治原 徹)の開発グループは、名古屋大学で長年培われた溶液成長法注1) のシーズ技術を基盤とし、さらにAI技術であるデジタルツイン注2) を活用することで、6インチp型SiCウエハおよび6インチ・8インチn型SiCウエハの試作に成功しました。とりわけp型SiCウェハについては、従来の昇華法では大口径化が困難であり、超高耐圧パワーデバイス実現の最大の課題とされてきましたが、今回の成果により直流送電や大規模データセンター向け電源システムなど、次世代社会インフラを支えるキーマテリアルへの道が大きく拓かれました。
SiC(シリコンカーバイド)は電気自動車や鉄道、再生可能エネルギー用インバータなどに用いられる、持続可能な社会に不可欠な次世代パワー半導体材料です。そのさらなる普及のためには、ウエハの大口径化(6~8インチ化)や結晶欠陥の低減による高品質化が強く求められています。名古屋大学は2019年に溶液成長法による6インチ結晶成長の基本条件を発見し、国際的な研究拠点として発展を牽引してきましたが、量産技術への展開は未解決の課題でした。
今回、オキサイドパワークリスタル、Mipox、UJ-Crystal、アイクリスタル、産総研、そして名古屋大学は、NEDOグリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトの支援を受けて研究開発を推進してまいりました。名古屋大学ならびにアイクリスタルは温度場・濃度場・流れ場の最適制御方針を提示し、膨大な条件を高速シミュレーションによって解析して最適条件を抽出しました。UJ-Crystalの知見と組み合わせることで結晶成長の基本レシピを確立し、さらにオキサイドパワークリスタルは複数台の育成装置を用いて結晶育成を実証するとともに、事業化を見据えた量産プロセスの開発を進めました。その結果、6インチp型SiCウエハおよび6インチ・8インチn型SiCウエハ の試作に成功し、2025年9月14日から19日に韓国・釜山で開催されたSiCに関する国際会議「ICSCRM2025注3) 」に出展しました。特に超高耐圧デバイスの実現に不可欠なp型SiCウエハは日本企業として初めての展示であり、基調講演でその重要性が語られたのと重なり、 世界各国の参加者から大きな注目を集めました。
今回の展示では、コンソーシアムメンバーである6者が共同開発した成果を公開しました。現在、6500Vを超える超高耐圧領域では依然としてシリコンが主流ですが、次世代の超高耐圧IGBTの実現には高品質なp型SiCウエハが不可欠です。従来の昇華法ではドーパント制御が難しく、大口径のp型ウエハ製造には大きな課題がありました。今回、我々は革新的な溶液成長法によってこの課題を克服し、p型SiCサンプルを完成、日本企業として初めて展示するとともに、n型SiCサンプルも併せて公開し、大きな反響を得ました。

<コンソーシアムメンバー>
本成果は、NEDOグリーンイノベーション基金事業「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトの一環として実施されたものです。今後も6者は引き続き連携し、量産技術の確立と事業化を推進することで、次世代エネルギー・情報社会を支える基盤技術としてのSiCの普及を加速してまいります。

図1:SiCウエハ注4)展示品:6インチn型ウエハ(左)、8インチn型ウエハ(中)、6インチp型ウエハ(右)

図2:展示品の拡大:6インチp型ウエハ(左)、6インチn型ウエハ(右)
【会社概要】
株式会社オキサイドは、国立研究開発法人物質・材料研究機構発のベンチャー企業として2000年に設立しました。創業以来、単結晶・レーザのグローバルニッチトップカンパニーを目指し、「研究成果を社会に還元し、キーマテリアルを世界に向けて発信する」、「顧客へマテリアルソリューションを提供し、社会の発展に貢献する」、「単結晶を核とした製品を開発し、未来の市場機会を創造し続ける」という経営理念の下、事業展開してまいりました。株式会社オキサイドパワークリスタルは株式会社オキサイドの100%子会社として2024年10月に設立され、パワー半導体向け材料の事業を承継しております。
Mipox株式会社は、まもなく創業100周年を迎えます。これまで培ってきた技術力を基に、更なる進化と持続的な成長を目指します。1970年代より本格的に研磨分野に参入しました。当社の事業は非常にニッチではありますが、「塗る」「切る」「磨く」のコア技術を基に、ハードディスクや光ファイバー、半導体ウエハをはじめとするハイテク分野で強みを発揮してまいりました。これからも挑戦を続ける100年ベンチャーとして、持続可能な社会の実現を目指し、お客様が実現したいことを具現化し、「塗る」「切る」「磨く」のコア技術で世界を変えていきます。
株式会社UJ-Crystalは、名古屋大学未来材料・システム研究所宇治原教授のシーズ技術である超高品質SiC溶液成長法によるSiCウエハの研究開発と事業化を目指し、名古屋大学発スタートアップとして2021年に設立されました。高度なシミュレーション技術やAIデジタルツイン技術による結晶成長プロセスの高度最適化を推進し、革新的な材料開発を通じて次世代パワー半導体市場の発展とカーボンニュートラル社会の実現に貢献することを目指しています。
アイクリスタル株式会社は、次世代半導体材料であるSiCの結晶成長プロセスの最適化をルーツとする名古屋大学発スタートアップです。半導体業界を始めとした様々な産業に向けて、品質向上、コスト削減などを達成する製造条件をAIを活用したプロセスインフォマティクス技術を駆使して高速に見つけ出し、開発期間を圧倒的に短縮するプロセスインフォマティクス技術のソリューションを提供しています。
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、経済および社会の発展に資する科学技術の研究開発などを総合的に行う日本最大級の公的研究機関であり、「社会課題の解決」と「我が国の産業競争力強化」をミッションとしています。多岐にわたる研究開発を実施しており、傘下の株式会社AIST Solutionsと一体となった産総研グループとして、世界最高水準の成果の創出とその社会実装に力を入れています。
名古屋大学は、「自由闊達な学風のもと、人間と社会と自然に関する研究と教育を通じて、人々の幸福に貢献すること」を使命とする指定国立大学法人です。自発性を重視した教育で、論理的思考力とグローバルな視野を持つ「勇気ある知識人」を育成。21世紀に入り6名のノーベル賞受賞者を輩出するなど、世界屈指の研究成果を誇ります。本学未来エレクトロニクス集積研究センターは、窒化ガリウムなどのポストシリコン材料を用いた、次世代省エネルギーデバイス研究を推進し、材料から応用システムまで一貫した研究・教育体制を構築し、学術的・社会的な波及効果を生む拠点となることを目指しています。
【用語説明】
注1) 溶液成長法
溶液成長法とは、溶媒に溶け込んでいる溶質を種結晶上に析出させ結晶成長させる方法です。SiC の場合、炭素(C)製坩堝内にシリコン(Si)を投入、加熱して液体とし、坩堝材の C が Si 溶媒中に溶け込みSiC 溶質が作られます。その SiC 溶質を SiC 種結晶に析出させ、SiC 単結晶を成長させます。従来の昇華法に比べ、原理的に欠陥が少なく高品質な単結晶育成が可能な方法です。 (↑ 本文に戻る)
注2) デジタルツイン
デジタルツインとは実験や製造工程を仮想空間で再現し、条件探索や最適化を高速に行うシミュレーション技術です。 (↑ 本文に戻る)
注3) ICSCRM2025
ICSCRM(International Conference on Silicon Carbide and Related Materials)2025 は、2025 年 9月 14 日から 9 月 19日に韓国・釜山で開催された、SiCの材料からデバイスまでの技術を網羅する重要な国際会議です。 (↑ 本文に戻る)
注4) SiCウエハ
SiCウエハは、不純物(ドーパント)の有無や種類によって色が変わります。無色は不純物をほとんど含まない高純度結晶で、電気をほぼ通さない「半絶縁」状態になります。絶縁体に近い性質を持つため、パワー半導体用途には使用されません。パワー半導体向けでは、ドーパントを導入した導電性ウエハが用いられます。現在一般的に採用されているn型ウエハ(薄緑色)は、窒素などをドーピングすることで電子が流れるようになり、光の吸収によって薄緑色を帯びます。一方、p型ウエハ(青色)は、アルミニウムなどをドーピングすることで正孔が流れるようになり、光の吸収特性によって青色に見えます。 (↑ 本文に戻る)
研究者連絡先
名古屋大学未来材料・システム研究所
教授 宇治原 徹(宇治原研究室)
E-mail: ujihara[at]nagoya-u.jp ※メール送信の際は[at]を@に置き換えてください。


