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究極な薄さの強誘電体原子膜の合成に成功 ~60℃の低温水溶液プロセスで実現、デバイスの小型化にむけて期待~

 
本研究のポイント

 単位格子注1)数個の厚みを有する、チタン酸バリウム(BaTiO3注2)ナノシート注3) 合成に成功。
 〇60℃の低温水溶液プロセスで、ナノシートの合成を実現。
 〇厚さ1.8 nm(単位格子3個に相当)のBaTiO3で、強誘電特性を確認。

 

【研究概要】



 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の長田 実 教授らの研究グループは、水溶液プロセスにより60℃という低温で、単位格子数個の厚みを有する、チタン酸バリウム(BaTiO3)ナノシートの合成に成功しました。さらに、ナノシート1枚での強誘電特性の評価を行ったところ、強誘電特性は単位格子3個に相当する厚さ1.8 nmの原子膜まで維持されることを確認しました。さらに、ナノシート1枚での強誘電特性の評価を行ったところ、強誘電特性は単位格子3個に相当する厚さ1.8 nmの原子膜まで維持されることを確認しました。今回確認された単位格子3個の強誘電体注4)は、自立膜としては最も薄い膜厚であり、超薄膜における特異機能の解明やデバイスの小型化に重要な指針を与えるものと期待されます。
 本研究成果は、2023年2月14日付材料科学学術国際誌「Advanced Electronic Materials」オンライン版に掲載されました。

 

[研究背景]



 炭素原子1層からなるグラフェンの発見以降、原子レベルの厚さをもつ2次元物質や、新しい電子機能の開発が活発に行われています。その重要なターゲットの1つに、メモリ、センサ、アクチュエーター注5)、振動発電などに利用される強誘電体があります。強誘電特性に関しては、これまでナノ粒子や薄膜において多くの研究がされており、数ナノメートル程度への極薄化により強誘電特性が消失する「サイズ効果」が問題となっていました。強誘電体において、厚さ数ナノメートルのナノシートの合成が実現できれば、単位格子数個という臨界サイズでの新規物性の開拓や応用などの新展開が期待されます。しかしながら、強誘電体の代表例であるチタン酸バリウム(BaTiO3)などでは、従来の合成手法である層状化合物の剥離でのナノシート合成が困難であり、新しい合成方法の開発が待ち望まれていました。

 

[研究成果]



 本研究では、BaTiO3ナノシートの合成を実現する手法として、厚さ1 nmの酸化チタンナノシートを利用し、表面反応によりBaTiO3への構造変化を誘起するテンプレート合成法を検討しました(図1左)。一般に、BaTiO3の合成には1000℃以上での焼成を必要とします。これに対し、本研究では、酸化チタンナノシートの高い反応性に着目して、水・エタノールの混合溶液中で水酸化バリウムと反応させることで、60℃の低温でBaTiO3ナノシートの合成を実現しました。透過型電子顕微鏡像、ラマン分光測定による構造解析の結果、欠陥のないBaTiO3の形成が確認されています(図1右挿入図)。さらに、本手法では、膜厚の制御も可能であり、反応時間を5、10、25時間と変化させることで、2格子から6格子のナノシートの合成を実現しました。
  合成したBaTiO3ナノシートに対して、圧電応答力顕微鏡注6)により、ナノシート1枚での強誘電特性の評価を行ったところ、強誘電特性は厚さ1.8 nm(単位格子3個に相当)まで維持されており、厚さ1.4 nm(単位格子2個に相当)では消失することを確認しました(図1右)。

 

図1.(左)BaTiO3ナノシートの低温合成のイメージ図。 (右)BaTiO3ナノシートの圧電応答と透過型電子顕微鏡像(HAADF-STEM)。

 

[研究成果の意義と今後の展開]



 今回確認された単位格子3個の強誘電体は、自立膜としては最も薄い膜厚であり、超薄膜における特異機能の解明やデバイスの小型化に重要な指針を与えるものと期待されます。
 本研究は、JSPS科学研究費補助金事業 基盤研究(S)、JST研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)、文部科学省 国際・産学連携インヴァースイノベーション材料創出プロジェクト (DEJI2MA)の支援のもとで実施されました。

 

[用語解説]


 
注 1)単位格子:

結晶をつくっている格子の最小単位。結晶内での原子や分子、イオンの配列構造を表したものを格子(あるいは結晶格子)といい、格子で最小の繰り返し単位を単位格子という。 本文に戻る)

注 2)チタン酸バリウム(BaTiO3):
化学式BaTiO3で表されるペロブスカイト構造を持つ強誘電体。極めて高い誘電率をもつことから積層セラミックスコンデンサなどの誘電体として広く利用されている。 本文に戻る)

注 3)ナノシート:
原子1層、数層からなる物質。代表する物質としては、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)、酸化物ナノシートなどがある。 本文に戻る)

注 4)強誘電体:
誘電体の一種で、外部より与える電圧の向きに応じて電気分極が反転し、しかも電圧がゼロでも分極が保たれる物質。代表的な物質に、チタン酸バリウムBaTiO3、チタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr,Ti)O3などがあり、コンデンサ、メモリ、アクチュエーター、センサなどに利用されている。 本文に戻る)

注 5)アクチュエーター:
強誘電体の圧電効果を利用した電気ー機械特性変換素子。強誘電体には、力を加えると変形して電圧を発生する性質(圧電効果)があり、逆に、電圧をかけると伸び縮みして力を発生する性質(逆圧電効果)がある。この圧電効果を利用することで、機械信号を電気信号に変換することが可能となる。圧電アクチュエーターは、インクジェットプリンター、カメラ、自動車などの身の回りの電化製品や医療用製品、工業用製品など、 幅広い分野で使用されている。 本文に戻る)

注 6)圧電応答力顕微鏡:
走査型プローブを用いた顕微鏡観察手法の一種。先端を尖らせた探針を用いて、物質の表面をなぞるように動かして表面形状を観察するとともに、強誘電体の分極方向の情報を得るために利用される。 本文に戻る)

 

[論文情報]


 
論文誌:Advanced Electronic Materials
論文タイトル:Molecularly Thin BaTiO3 Nanosheets with Stable Ferroelectric Response
(安定した強誘電特性を示す分子厚チタン酸バリウムナノシート)
著者:Kazuki Hagiwara (元名古屋大学大学院生), Ki Nam Byun (名古屋大学大学院生) , Shu Morita (名古屋大学大学院生), Eisuke Yamamoto (名古屋大学助教), Makoto Kobayashi (名古屋大学准教授), Xiaoyan Liu (重慶科技学院・中国科学院・教授), Minoru Osada (名古屋大学教授)

DOI: 10.1002/aelm.202201239
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/aelm.202201239

 

名古屋大学 長田 実研究室
http://mosada-lab-nagoya.com/


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研究者連絡先

東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所
教授 長田 実(おさだ みのる)
E-mail : mosada[at]imass.nagoya-u.ac.jp