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カーボンナノチューブ1本で視えないアンテナを開発! ~超小型センサーなどIoT分野への応用に期待~

 国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所の大野 雄高 教授は、株式会社豊田中央研究所の舟山 啓太 研究員らとの共同研究で、大規模なデジタルデータを受信可能なカーボンナノチューブ注1)(CNT)1本から成る極微小アンテナを開発しました。
 この極微小アンテナは、到来電波の信号を、アンテナ自身である片持ち梁状のCNTの機械振動に変換することでデータ受信を可能にする、従来のアンテナとは異なる原理で機能するアンテナです。このアンテナは、高い機械強度と優れた電気伝導性を有するCNTを用いることで、ナノスケール注2)でありながら、安定した高精度のデータ伝送を実現しました。また、デジタル信号処理技術と組み合わせることで、ノイズ下においても0.93bit/Hzという高い通信性能を達成しました。これは80 MHzの帯域幅注3)において約70 Mbps注4)の通信速度を実現可能であることを意味しており、従来のテキストや画像データ、ビデオ通話さえ可能な通信性能です。この技術は、将来的に通信システム、人や物を検知するセンシングデバイスの超小型化を介してIoT分野への貢献が期待されます。
 本研究成果は、2021年10月22日付科学雑誌「ACS Applied Nano Materials」にオンライン掲載されました。

 

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【ポイント】
・カーボンナノチューブ1本の極微小アンテナを実現。
・デジタルデータの受信/復調、WiFi通信環境下に迫る通信性能を実現。
・超小型の通信デバイスやセンシングデバイスへの応用に期待。

 

【研究背景】
 IoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)の利用拡大により、多様な情報を同時に、高精度で検知・処理するために、一つのシステムに多数のセンサーを設置する必要があります。これに伴い、センサーの小型化の重要性が高まってきています。
 従来のセンサーでは、情報検知・受信を司る「アンテナ」の大きさが、受信する信号(電磁波)の波長によって決まっていました。これは受信信号をアンテナが直接、電気的な信号に変換するためです。今回の研究では、機械的に振動するアンテナを利用して電磁波を検知する技術に着目しました。これは受信信号を機械振動に変換してから、電気信号に戻す技術です。機械振動子アンテナに、高い機械強度と優れた電気特性を持つカーボンナノチューブを用いることで、従来では数m~数cmという大きさが必要なアンテナをナノスケールにまで小型化しました。さらに本研究では、作製したナノアンテナとデジタル通信技術を組み合わせることで、ノイズのある環境下でも、極微小のアンテナでカラー画像のような大きなデータを通信することが可能であることを実証しました。本研究の成果は、様々な信号検出に応用可能であり、生体内や大気中の情報など、これまで不透明だった様々な情報を直接的に検出できる可能性を秘めています。

超小型アンテナを用いた様々なセンサーや検出応用のイメージ

 

 

【成果の内容と意義】
1. カーボンナノチューブ1本の極微小アンテナを実現
 カーボンナノチューブを機械振動子として用いることで、極微小ながら安定した信号受信が可能なアンテナを実現しました。
 作製した機械振動子アンテナは、1本のカーボンナノチューブから成る片持ち梁が、小さな空間を介して微小電極と対向している構造を持ちます(図1a)。この微小電極とカーボンナノチューブ間に直流電圧をかけることで、カーボンナノチューブ先端から電子が飛出して電流が流れます(図1b)。ここに、外部から信号(電磁波)が照射されると、カーボンナノチューブ内の電子に静電力が働き、到来信号に合わせてカーボンナノチューブが機械的に振動します。カーボンナノチューブと微小電極間に流れている電流の大きさは、両者の距離によって変化します。カーボンナノチューブが機械振動を行うと、この距離が振動に合わせて増減するため、流れる電流には到来した信号の情報が反映されます(図1c)

図1a)電子顕微鏡で撮影したナノスケールアンテナの写真  図1b)直流電圧をかけた際のアンテナのイメージ  図1c)信号を受信し、屈曲した際のアンテナのイメージ

 

2. デジタルデータの受信/復調、WiFi通信環境下に迫る通信性能を実現
 作製したナノスケールアンテナを用いて、実際にカラー画像(図 2)のデータを受信した際の動作を実証しました。微小なアンテナは到来する信号から受け取るエネルギーも小さく、ノイズの影響を受けやすいですが、符号誤り訂正注5)といったデジタル通信技術を組み合わせることで高い精度で、データの受信が可能であることが確認できました(図 2)。このアンテナが現在主流である80 MHz帯域幅を持つWiFi環境でも動作すると仮定した際の通信速度は70 Mbps程度となり、画像データやビデオ通話のような大容量データ通信への応用の可能性を示すものです。

図2)デジタル情報伝送実証に使用したカラー画像と受信結果。 受信結果①:符号誤り訂正を組み合わせて復元された画像。 受信結果②:符号化技術を使用しなかった際の復元画像。

 

【用語説明】
注1)カーボンナノチューブ:
 六角形の炭素ネットワークが直径約1nm(10億分の1メートル)の円筒状になったもの。透明導電膜やトランジスタの材料として応用が期待されている。

注2)ナノスケール:
 ここでは主に長さのことを指す。10のマイナス9乗からマイナス7乗メートルの長さのこと。

注3)帯域幅:
 通信等を行う際に用いる電磁波の最高周波数と最大周波数の差のこと。この差が大きいほど多くのデータのやり取りが可能となる。

注4)bps(ビットパーセコンド):
 1秒間に送受信されるビット数を指す。

注5)符号誤り訂正:
 デジタルデータ(0か1判定)に誤りがあった際に誤りを認識し正しい符号に訂正する技術。様々な方式があり実用化されている。


【論文情報】
雑誌名:ACS Applied Nano Materials
論文タイトル:Carbon Nanotube-Based Nanomechanical Receiver for Digital Data Transfer
著者:舟山 啓太、田中 宏哉、廣谷 潤、島岡 敬一、大野 雄高、田所 幸浩
DOI:10.1021/acsanm.1c02563
URL:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsanm.1c02563

 

【研究者連絡先】
東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所
教授 大野 雄高(おおの ゆたか)
E-mail:yohno[at]nagoya-u.jp

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