2026年3月末を以て未来材料・システム研究所を定年退職することになりました。2019年1月の着任以降7年余りの期間、歴代所長の先生方、所属する材料創製部門を始め各部門の先生方には大変お世話になり、ありがとうございました。ほぼ40年の研究者としての勤務期間に比して、未来研で過ごした時間は短く、本稿をお借りして私の名大赴任前も含めた研究履歴の一端を紹介させて頂き、退職の言葉とさせて頂きたく思います。
私は京都大学大学院工学研究科の博士課程在学中に、工学部工業化学科「無機構造化学」研究室に助手として採用され、以降、無機材料の合成と物性評価を続けてきました。高分子物理化学の研究からの「トンデモ人事」を備えて下さった曽我直弘先生には感謝してもしきれません。弱冠25歳の私は「ゾル-ゲル法」と呼ばれる液相合成プロセスによって、主に酸化物セラミックスやガラス材料を作製する研究を始めましたが、1年程経った頃に「重合誘起相分離」という現象を利用して、極めて構造が均一な多孔材料が作製できることを見出しました。
これを曽我先生にお見せしたところ、「これは今までにないものだ」ということで、即座に特許を書くことになりました。もちろん特許公報も明細書も読んだことがなく(ネットで瞬時に取寄せという時代ではなかった)、弁理士に色々尋ねながら国内特許を、また企業の特許担当者と一緒に米国特許を書くはめになりました。無知というのは怖いもので、ここから無我夢中で明細書や実施例を記述する謎の日英文法をマスターし、弁理士さん達の要求に応えるべく奮闘しましたが、研究そのものも結構なスピードで進展したので、関係する特許を年間数件出願するペースが続きました。当時は大学による特許出願の支援制度は極めて限定的で、結局国内出願は曽我先生のポケットマネーで、国際出願は共同研究企業のご厚意で、出願費用が賄われました。
5年程過ぎた頃、開発した材料(シリカモノリス)をドイツのメルク社と協同して液体クロマトグラフィーのカラムとして応用するプロジェクトが始まると、同社の出す戦略的な特許をすべてチェックする立場になり、国ごとの知財管理の違いも学ぶことになりました。2000年にシリカモノリスの製品化に漕ぎつけて数年後、今度は国内企業から透明断熱材の開発に関わる相談を受け、同僚・学生とともに取り組みました。こちらは出願件数こそ多くはなかったですが、当該企業の集中的な投資と支援を得て、世界初の有用な材料を開発することができ、大学にも知財管理部署が整備されたことも相俟って、適切に知財を確保することができました。
新しい材料を開発したら、適当なタイミングで出願可能な要素をまとめて、論文発表よりも少し先に出願を進める、という研究スタイルは上記の経験から身に着いたものですが、PCT出願他ファミリー特許をまとめても、25年程の間に70件程度の出願と多数の権利化ができました。京都大学の一部は技術開発に関しては保守的で、このような研究スタイルはしばしば「学問を深めていない」と見なされていたようです。自分としては共同研究やプロジェクトによる技術開発のリソースを、十分基礎研究に(しばしば不誠実なくらいに)注いでいたつもりでしたが、退職に当たってそれなりの被引用数の論文として残せたことで、良しとしようと思います。A先生のような誰の目にも「未来材料」というものになったかどうかは定かではありませんが。

図:2000年に発売されたクロマトグラフィーカラムのパンフレット
中西 和樹 教授
中西 和樹 教授 最終講義のご案内
日時:令和8年3月7日(土)13:00-15:00
講義題目「固まるまで待つのが大切」
https://www.imass.nagoya-u.ac.jp/news_information/20260307.html
中西・長谷川研究室HP
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/solid3/
研究者プロフィール
https://profs.provost.nagoya-u.ac.jp/html/100010327_ja.html
(京都大学ICeMSサイトより)
https://www.icems.kyoto-u.ac.jp/people/787/
主な受賞
2017年 科学技術振興機構 大学発ベンチャー表彰 2017 経済産業大臣賞
2010年 文部科学省 平成22年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 科学技術賞
主要特許
https://www.chembio.nagoya-u.ac.jp/labhp/solid3/member/Kazuki.html
中西・長谷川研究室インタビュー
https://www.imass.nagoya-u.ac.jp/group/nakanishi_hasegawa


