Research

Research Group

研究グループ紹介

水口研究室インタビュー(ナノスピン・磁性材料創成工学グループ)

廃熱を電気に変換!
目指せ!エネルギー変換を自在に操る省エネマスター

研究室の実験装置群の前に立つ(左から)水口教授、宮町准教授
試料(サンプル)作りをする装置。
様々な機能を示す試料作りが、正確な良いデータを得るためにとても重要

私たち人間が、動力や電力などのエネルギーを作る時に地球上に放出する熱って、どれくらいかご存知ですか?元のエネルギーのうち活かされるのは大体4割で、6割は熱として大気中に捨てられているそうです。確かに、自動車を走らせたらエンジンルームは高熱を発するし、エアコンを稼働したら室外機が熱い空気を出しますし、工場からは大規模に熱を出してますよね。
水口研究室では、地球温暖化に拍車をかけるこの「廃熱」を電気エネルギーに変換する研究に主に取り組んでいます。「そんなことできるの?」と思ったアナタ、「できたらいいのに…」を科学の力で実現させていくのも科学者、研究者なんです!
今回は、エネルギー変換を自在に操って、さらに省エネに貢献しようという水口研究室のお二人から、研究の着眼点や魅力について伺いました。

捨てられる熱を電気に!?

教授水口 将輝

MIZUGUCHI Masaki

profile

1998年 東京大学卒業、2003年 同大学博士課程修了。2003年 日本学術振興会特別研究員。2004年 大阪大学特任助手。2007年 東北大学助教、2009年 同大学准教授。2020年 名古屋大学教授。
● 好きなこと、趣味 / スキー、ゴルフ、スキューバダイビング、ダンス、読書、旅行、麻雀、カラオケ、電話、他多数。自転車に乗るのも山に登るのも、野球を観るのもやるのも好きです。楽器はピアノ、トランペット、ギター、などなど何でもやります。でも、一番好きなのはお酒。妻と週末に呑むお酒は格別です。

早速ですが、水口研究室の特徴を教えてください。

水口:社会的にも学術的にもエネルギーが注目されていますが、エネルギー源っていろいろあるんですよね。水や風、太陽光はもちろん、音や振動、電磁波からも発電することができます。そんな中で我々は主に、磁性材料というものをベースに使って、熱源を電気に変換するといったことをしています。

熱源っていうのは例えば車の熱のような?

水口:それは例の一つですね。自動車のエンジンやマフラーがかなり熱くなってるのは廃熱ですが、同じように熱はいろいろなところで廃熱として捨てられています。大体、世の中で作られるエネルギーのうちの4割しか活かされず、6割は捨てられているんですよ。そういった捨てられるエネルギーをうまく回収して、熱に限らず様々なエネルギー源の間で変換し、新しい電力を生んだり活用できる材料やシステムを作る研究を進めています。

廃熱から電気を作れるんですね!

水口:エネルギーを創出するために、全く新しいエネルギー変換技術に注目が集まりがちですが、我々は古くから知られる「異常ネルンスト効果」(下図参照)という熱磁気効果を、ナノスケール*1の磁性体超構造*2に適用することで、飛躍的に大きな熱電変換効率を持つ材料の創製を目指しています。この異常ネルンスト効果を、熱から電気へのエネルギーを変換することに使おうとしたのは、我々がほぼ最初なんです。今は、世界的にも結構競争が激しい分野になっています。

異常ネルンスト効果の概念図。
磁性体に熱勾配を加えると、熱勾配と磁化に直行する方向に電圧が生じる。

ベースは磁性材料

どんな材料を使うんですか?

水口:ベースとなるのはいわゆる磁性材料で、皆さんよく知っているのは鉄ですとか、コバルト、ニッケルみたいなもの。こういった単純な元素はもちろんなんですが、そういったものを組み合わせた化合物とか、金属だけではなく半導体や絶縁体などの磁性材料を組み合わせることにより、磁気やスピン*3の機能を活用してエネルギーの変換や、その他様々なサイエンスに結びつくような現象が得られます。

目の前でその状態を作るというようなことはできますか?

水口:できますよ。熱電変換*4、熱から電気に変換する場合っていうのは、何か熱勾配を起こせばいいんです。例えば、先ほど言ったような材料で数センチメートルくらいの大きさのものを作って、一方を温水に浸けて熱い、もう一方は冷たいという状況を作ると熱の勾配がありますよね?そうするとそこにつないだ豆電球がピカッと光ります。

熱の差だけで電気が発生する!
試料に熱勾配がある状態を、サーモカメラで実際に撮影したところ。
測定した2つの場所の間に2℃ぐらいの温度差がついているのがわかります。

いつ頃から磁性材料を?

水口:学生時代から磁性材料をやっていました。磁性に非常に興味がありまして。磁石って、物もくっつけるんですけど、研究者の気持ちですとか、興味を惹きつけるところがあって。いろんな材料があってあれこれやっているんですが、結局やっぱりベースでは磁石とかスピンっていうようなことの研究に、私自身は身を置いています。

原子1個1個の並びを観る

准教授宮町 俊生

MIYAMACHI Toshio

profile

2005年大阪大学卒業。2008年同大学博士課程修了。2009年ドイツカールスルーエ工科大学博士研究員。2013年東京大学物性研究所助教。2020年電気通信大学テニュアトラック助教(卓越研究員)。2021年~名古屋大学准教授。
● 好きなこと、趣味 / 海外旅行、ビール飲み比べ(ドイツのビール修士号持っています)、ジムでの筋トレ。

宮町先生はいかがですか?

宮町:私も磁性・磁石について研究をしているんですが、例えば水口研究室で作製した材料の磁石の起源を、顕微鏡を使って原子1個のレベルで観るといった、もっとミクロな世界の仕事をメインにやっています。

原子レベルで観ると磁石の起源がわかるんですね。

宮町:原子の並びや、原子1個の磁気シグナルを観て、磁石はどうして引き付けられる(反発しあう)のか、磁石っていったい何だ?という根源的なことを解明する基礎研究をこれまで主に行ってきました。これからはそれをどうやって実社会に繋げるのか、というところにも取り組みたいと思っています。

どういった測定や評価をされているのでしょうか。

宮町:走査型トンネル顕微鏡*5(STM)という顕微鏡を使っているのですが、物質表面の原子がどう配列しているのかを原子1個のレベルで観察することができます。表面の凹凸情報だけでなく、磁気シグナルも検出可能なため、物質の磁石としての強さを原子スケールで調べることも可能で、そういった測定や評価をしています。

針の先端の気持ちになる!?

走査トンネル型顕微鏡で、ご苦労されている点ってありますか?

宮町:電子顕微鏡と同じで、振動があると像が揺れてしまうので、その振動を抑えることはとても重要です。例えば建物の5階ですと、1秒間に3回位揺れてるんですね。我々はほとんど感じませんが、STM装置にはその振動がノイズとして入ってしまいます。それから、できるだけ物質の表面が汚れないようにしないといけないので、超高真空環境を整備することが必要です。STMの針の形が良くないっていうこともあります。

針の先端の形が影響するんですか。

水口:最後は原子1個なので、その1個を微妙に取ったりつけたりっていうのを、制御できるようになるのは多分経験で、恐らく見えない中で想像でやってますよね。針の先が今どうなっているのかって。

宮町:気持ちは本当にそういう感じです。慣れてくると「針は今どう感じているんだろう」って、針の気持ちになる(笑)。

科学者の醍醐味

研究をされていて、楽しいと思うことは?

水口:やはりまずは、新しいものを発見した時です。研究者は皆さん同じことを言われると思いますが、世界中の誰も知らなくて、今この瞬間、私しか知らないんだという。自己満足なんですけどね。もう一つは、成果が得られた時、一緒にやってるスタッフとか学生さんと共有できる達成感があること。それから周りへの波及効果ですね。

宮町先生はいかがですか?

宮町:そうですね、新しい発見をした時や『Nature』などに論文が出るようなうまくいった仕事は実はすごくシンプルで、スーッと落ちていくようなその自然の法則の美しさに触れることができるときにワクワクしますね。そこがサイエンスの面白さかな、と感じています。複雑な計算や解析によって結論を導き出すこともすごく大事なんですが、シンプルな現象の中に真理が隠されているっていうことを感じられる瞬間が面白いかなと思います。

研究者の醍醐味ですね。具体的にそう感じた経験談があれば教えてください。

宮町:例えば原子磁石についてですと、その起源は量子力学や数学がベースになっているんですね。どうすれば原子1個でも強い磁石になるかということは量子力学の、まさに教科書に載っているようなことから理解することができます。そしてSTMを使って実際に原子磁石を観測してみて、本当にその量子力学の法則に則って、安定で強い磁石になっていることを現実に確認できた時には、「お~!」って思いましたね。

記号の羅列に見えていた公式の意味が目に見えて「これか~!」っていう感じですか?

宮町:そうですね、しかもその式というのがすごくシンプルで、「この式がこの物理現象を支配しているんだ」ということが目に見えてわかることが、サイエンスの面白さの一つかなと考えています。また、基礎研究から一歩進んだ応用研究でもこの原子レベルでの物理現象を考慮してあげると、革新的な性能を持つ磁性材料やデバイスの実現につながることが我々の最近の仕事でわかってきているので、その辺りが今、面白いなと思っているところです。

最後に、未来の研究者(若者)にメッセージを。

水口:若者は若者らしくあるべき、というのが私の考え方です。それは容姿や価値観といった意味ではなく、人生との向き合い方のことですね。若い時しかできない、チャレンジングな生き方はあって当然と思ってますし、その情熱の向く先が研究であれば、腹一杯、研究してもらえればいいと思います。そのときは、研究とはこうあるべき、という固定概念にとらわれず、自由な発想で挑んでいくことができるのが若手研究者の特権だと思います。

用語解説

*1 ナノスケール

ナノメートル単位のスケール。即ち、10億分の1メートル単位の大きさの世界のこと。1nm=0.000000001m

*2 磁性体超構造

磁性体の結晶構造や界面構造を制御し、スピンの傾きや空間的配置を操ることにより新たな機能・物性を創出する構造。

*3 スピン

粒子の磁気にかかわる量。自身で回転する運動の一種で、「自転」のイメージでとらえるとわかりやすいが、古典力学の自転とは異なる。外から磁力が作用すると、それと同じ(平行)か逆(反平行)の向きになる。電子スピンを制御すると電流の流れやすさを変えたりできるため、次世代記録・回路開発の分野でも注目されている。

*4 熱電変換

ゼーベック効果、ペルティエ効果、トムソン効果などの、熱と電気を関係づける現象の総称。例えば、2種類の異なる金属または半導体を接合して、両端に温度差を生じさせると起電力が生じるのがゼーベック効果。

*5 走査型トンネル顕微鏡

scanning tunneling microscope 略称STM。試料表面に鋭くとがった金属探針(プローブ)と導電性試料の間に弱い電圧をかけながら探針を接近させると、トンネル電流が流れる。この電流は両者の距離の変化に敏感で、トンネル電流を一定に保ちながら試料表面を走査すると、試料表面の凹凸を原子の尺度でなぞることができることから、表面科学の研究を画期的に進展させた。半導体や金属表面の観察をはじめ、有機材料から生体分子の研究まで幅広い分野で利用されている。IBMチューリヒ研究所のG.ビニッヒとH.ローラーが1980年代初頭に発明、この功績により両者は1986年にノーベル物理学賞を受賞している。

聞き手・文/広報委員会(池永、小西)『IMaSS NEWS Vol.11』特集より抜粋