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研究グループ紹介

大野 哲靖 (のりやす) 研究室

地球に創る太陽エネルギー!
プラズマを操り核融合発電へ

名古屋大学の誇る、密度の高い(質の良い)プラズマを発生させる装置NAGDIS(ナグディス)-IIを操作中

大野哲靖研究室のみなさん

 「プラズマ」という言葉は目にしたことがあると思いますが、一体何なのかご存知ですか? 身近な蛍光灯はプラズマ状態を利用して光ります。雷や美しく漂うオーロラは、自然界で発生するプラズマですが、何と言ってもその親分ともいえる巨大なエネルギーを発しているのは太陽です。
今、このプラズマを使って太陽に摸してとてつもなく高いエネルギーを作り出して発電する「核融合発電」という壮大な研究が、世界中で手分けして繰り広げられています。実はこの日本、中でも名古屋大学はその中心的役割を果たしており、大野研究室は、最終段階の重要な役割を担われているとのこと。
今回のインタビューではその概要や「プラズマって何?」「核融合って危ないんじゃないの?」といった素朴な疑問にもやさしくお答えいただきました。
「プラズマ」って?

▶まずは、プラズマについて教えてください。
大野 例えば、蛍光灯の中で光っているのもプラズマです。高校の物理で習うのは、固体があって、温めると液体になり、さらに温めると気体になり、それをさらに温度を上げると(大体1万℃以上)気体の分子や原子から、元々+の電荷を持った原子核とその周囲を回っていた電子がバラバラになって自由に飛び回るようになるということです。その状態のことをプラズマと言います(《図1》参照)。とても高いエネルギーを持っているので、液体や気体や固体では起きないようないろんなことが起きるという性質を持っているんですね。それが非常に興味深くて、ずっと研究しています。

▶核融合発電を実現するためだけのプラズマの研究ではないんですね。
大野 私は、核融合発電もプラズマの応用の一つと捉えています。プラズマを使った応用技術は山のようにあって、特に工業分野では、例えば半導体を作るにしても何をするにしても、どこかの段階でプラズマを使っていると思います(《図 2》参照)。私達の研究分野の一つが「作りたいプラズマを作る」ということ、つまり他にないプラズマを作りたいということなんですが、今の私の立場で言うとものすごく密度の高いプラズマを作りたいという目標があって、それは蛍光灯のプラズマと比べると10万倍位密度が高いんです。

▶プラズマって随所で活躍しているんですね。
大野 自然界に存在するプラズマのボスは何と言っても太陽です。太陽は水素とヘリウムのプラズマと磁場の塊であることが解明されているんですが、核融合発電というのは、地球上に人工的に太陽のエネルギーを発生させて発電しようという考えで、発電の仕組みとしては火力発電と同じです。日本、アメリカ、ヨーロッパ、ロシアが先進国として、2050年までに使えるようにと手を携えて研究しています。ただ、最近では環境問題から2040年までにと各国とも目標を繰り上げています。

大野 哲靖 教授
《プロフィール》
1988年 九州大学博士課程中退。同年 長崎大学助手

1990年 名古屋大学助手 1993年博士(理学)
1993年同大 講師 
2001年 同大 助教授
2008年 同大 教授

●趣味・好きなこと/将棋。スポーツ観戦。読書(もっぱら歴史)。棋力は向上しないので、現在は「観将(みるしょう)」。インターネット放送の充実で1日中観戦、家族に呆れられている。

  • 《図1》プラズマの例:水の4態

  • 《図2》プラズマの応用

 

▶原子力発電のような危険はないんですか?
大野 アインシュタインが出した有名な式E=mc²で表されるように質量をエネルギーに変えるという意味では、核分裂を利用する原子力発電も核融合発電も同じ仲間なんです。私は原発反対論者ではないのですが、決定的に違うのは核分裂の場合には高レベルの放射性廃棄物が増えていくという問題が避けられない、すごく立派なんだけど最終的に処分するところがどうしても決まらないという問題があるんです。一方、核融合は高レベルの放射性廃棄物はほぼ発生しないので、特殊な処分場は必要としません。

▶安全は確保されたとして、エネルギー源の枯渇は心配ないのでしょうか。
大野 この研究が魅力的に映るのは、核融合発電に必要なエネルギー源は重水素(記号:D)と三重水素(記号:T)と言って、海水と世界中に広く分布しているリチウムから取れるということなんです。重水素1gっていうのは海水30リットルの中に含まれていて、1gの水素燃料を核融合発電で燃やすと、石油8tぐらいのエネルギーに変わるんです。しかも偏在しない。これは重要で、一つの国で独占するようなことがないから戦争も起きない訳です。だから、核融合発電が実現すれば人類はエネルギー問題から解放されるし、世界中で研究されている最も大きな要因です。

なるほど。がんばれ核融合!
▶ところで大野先生がプラズマの研究に携るようになったきっかけは?

大野 私は元々明確な目的もなく、とにかく物理を学びたいというぼんやりした理由で九州大学の理学部物理学科に入りました。余談ですが、ちょうどその頃、第1次南極観測隊の越冬隊員で、タロ、ジロの犬でも有名になった映画「南極物語」の(実際の)主人公の北村先生が、九州大学で自然界のプラズマを研究されていて、南極物語が撮影に入る時に主役の人たちが北村先生にインタビューに来るということで、大学に来ていて。「プラズマ」っていう言葉はそこで知ったんです。宇宙のオーロラとか、アフリカに降り注いでいる電磁波を計るような研究とか。

核融合発電のしくみ

運命の出会い

▶それでプラズマを選ばれたんですか?
大野 その時は自分とは距離があるように思っていて、4年生の時は物性理論を選びました。それは面白かったんですが、当時の九州大学って周りが飲み屋さんと雀荘で囲まれていたものですから、この包囲網から抜け出す方法を考えた方がよいだろうと思いながら廊下を歩いていたら、たまたま今の春日市というところに、大学院だけのキャンパスができたというポスターが目に入って。ちょっと見に行ったらそこで「プラズマは面白いから来い」と強烈に勧められて入ることになったんです。

▶運命の出会いがあった訳ですね。
大野 プラズマって大きく3つの分野があって、①基礎研究 ②応用研究 ③核融合 なのですが、その時、春日に核融合の大きな装置ができたところでしたので、核融合をやろうと思っていたところ、その時の主任の先生に「若い時にいきなり核融合をやったらダメ。まずプラズマの基礎の勉強をしないと」って懇々と言われて、あまり考えなしにそこの研究室に入りました。特に企業に行くイメージもなかったので、そのまま博士後期課程まで行きました。博士後期課程1年生の時に「長崎大学でプラズマの応用をやっている先生が助手を探しているから行かないか」っていう話になって、大学を中退して長崎へ行くことに。

▶応用の世界に移ったということですか?
大野 そうです。プラズマを使って太陽電池を作るとか、刃物の表面に膜を作って寿命を延ばすとか、ラップに酸素のプラズマを当ててぺたぺたくっつくようなフィルムにするとか、そういう実験をしていました。3年位経った時、今度は「名古屋大学で高村先生が助手を探してるから行け」って言われて。関門海峡を越えることは抵抗があったんですけど(笑)、元々名古屋大学にプラズマ研究所ができたのが日本でのプラズマ研究の始まりで、プラズマの世界では名古屋がメッカということもありまして、とにかく行ってみようと。

核融合発電実現のための重要ポイント

▶核融合は名古屋大学に来られてからなんですね。
大野 はい。ラッキーだったと思うのは、結局プラズマの基礎も応用も核融合も全部一応渡り歩いたので、全分野に知り合いがいるということ。
核融合発電って、数秒の短い時間なら、もうできるんです。理論上は確立されていて、今は工学的な、長時間実現させるための研究段階になっていると言えます。でもまだまだ不可解なことがたくさん起きるので、分野をまたがった協力は不可欠なんです。今の大きな課題は、核融合炉の壁の材料です。高温に強いタングステン(記号:W)にプラズマを当てたらどうなるかという研究を、私たちはここ十数年メインテーマとしています。

▶重水素と三重水素、ヘリウムのプラズマですね。何が起きるんですか?
大野 ヘリウムでプラズマを作って金属の材料に打ち込むと、材料の表面がボロボロになっていくんです。それは私たちが 1996年位(当時はまだ壁の材料として炭素が世界中の潮流だった)に主張していたんですが、当初誰にも信じてもらえなくて、IAEA(国際原子力機関、International Atomic Energy Agency)で壁の材料を考えるワークショップがあって、そこで追試までして初めて信用してもらったという経緯があるんですが、今はタングステンとヘリウムプラズマの研究が世界中の主流の研究になっています。

新エネルギー開発の魅力

▶田中先生がプラズマの研究をしようと思われたきっかけは?
田中 私はどちらかと言うと核融合一本やりに近くて、今むしろ分野を広げないといけない状況に来ています(汗)。 元々は中学で「数学楽しい」と思って、高校で物理を習い始めたら「物理楽しい」となって。例えば自転車で坂道を下る時に「あ、位置エネルギーが運動エネルギーに変換されてる!」と考えたり、自然界の法則がわかってきて、ますます楽しくなりました。その頃、雑誌の『Newton』に載っていた記事を見て「核融合というものがあるんだなぁ」と思ったんですね。

▶高校生ですでに核融合に注目されていたんですね。
田中 当時はまだ、新エネルギーの一つとしてですけれど。それで高校3年生になって進路の選択の時に、当時はイラク戦争が起こって資源の偏在の問題を意識するようになり、好きな物理が活かせる道を考えて、新エネルギーが学べそうな名古屋大学の電気系(電気電子・情報工学科)に進みました。でも学部1年生の時に受講した「プログラミング」がすごく面白くて、実は一時情報系に心惹かれましたし、4年生の研究室配属では太陽光発電も選択肢でしたが、元々の志望動機と発展可能性を考えて、核融合の研究を行っている大野哲靖研に入りました。幸い、4年生でプログラムを使うような研究テーマを与えてもらえて、楽しく学ぶことができました。

▶両方叶った、みたいな?
田中 そうですね。それで企業就職ではなく博士課程に進学しました。
大野 情報ではない分野で情報の技術を持っているっていうのは、すごい力になるんですね。そのマインドって、やっぱり学生の時でないとなかなか育たない。だから実験と解析、計算がちゃんとできる人が今後は人材として重要だということは以前から思っていたんですが、田中先生はうってつけでした。

田中 宏彦 准教授
《プロフィール》
2008年 名古屋大学卒業。

2010年 日本学術振興会特別研究員。
2011年 名古屋大学博士課程修了(博士(工学))。同年 核融合科学研究所 助教。
2015年総合研究大学院大学 助教( 併任)。
2016年 名古屋大学 助教。
2022年 同大 准教授。

●趣味・好きなこと/コロナ禍により基本は家の中ですが、休日はいつも子供と遊んでいます。TV番組の「ピタゴラスイッチ」に出てくるような、ボールが転がるコースをたくさん作っています。

プログラミングを駆使して

▶今となっては、核融合研究にとってプログラミングは不可欠でしょうね。
大野 計算だけでなく実験もわかる技術者というのは、今後最も重要だと思います。田中先生は、難解なプログラミングを当時からやっていたの で「もう任せた」ということで、学生の時にすでにプログラムを使った実験解析のプロ 辻義之先生(流体の専門家)と二人で、学会誌に解説記事を書いたりしています。今でもその記事は最もダウンロードされた記事となっています。論文も、博士課程1年生までの間に主著3本、共著も合わせると5本書いたよね。

▶どういう内容の論文なんですか?
田中 基本的には、様々な揺れている信号をプログラムで解析していました。
大野 そういう技術を持っている人はいろんな装置で重宝がられるんですね、共同研究をやっているときに。もちろんうちの装置の解析もやりますし、那珂(なか)核融合研究所にあったJT-60や、核融合科学研究所のLHDといった大型装置のデータも彼が解析していました。だから、博士論文はそれら核融合装置のいろんなデータを対象に解析を行っていて、多くの人たちが彼の実力を認めて一緒にやってくれたので、それは非常に良かったと思いますね。

 

研究開発の進行状況は?

▶核融合研究は現在どんな進行状況ですか?
大野 世界各国(日本、欧州連合(EU)、ロシア、米国、韓国、中国、インド)で研究しており、核融合の原理はほぼ解明され、実証実験を行うための共通の核融合炉(ITER(イーター))をフランスに建設中です。これを10年位かけて作って 10年位で研究し、その後もっと実用的なものを作ろうということになっています。日本にも実験装置を遠隔操作する拠点が作られ、実証試験が行われています。

▶その核融合炉の壁に(前述の)タングステンを使えるのではないかということですか?
大野 ITERは核融合発電を実現できるか実証するための実験装置なのですが、すごく大規模なので気軽に試すことはできないですし、まずはうちの研究室にあるナグディス(NAGDIS-II)を使って研究しています。これは私達が設計した装置で、名前は名古屋ダイバータープラズマシミュレーターの略。結構密度が高いプラズマを作れるんですが、田中先生が学生の頃随分改良してくれて、さらにどんどん密度が上がっていって、それを計測するための技術もどんどん高度化したので、「ここで一緒に研究をしたい」と世界中から研究者が訪ねて来られます。

▶密度の高いプラズマってどうやって測るんですか?温度はどれ位?
大野 温度は大体数万℃位になります。計測には3つの手法があって、(1)レーザートムソン散乱計測 という名前があるんですけど、そういうレーザーを使った計測。これがこの業界では一番信頼性が高いと言われています。(2)プラズマの発光から密度・温度を出す手法 (3)電極を短時間だけ入れて溶けないうちに出して電気的に測る手法 この装置は3つとも持っていて、プラズマの温度や密度がどうなっているか等、全てわかるよう計測は結構凝っていて、プラズマがトータルでわかるように計測装置が山のようについています。

織り成す未来へ

▶レゴで作られた装置(NAGDIS-II)が楽し気ですが、趣味は?
田中 最近は子供(6歳)と遊ぶことが中心ですね。それからレゴテクニック(モータ、歯車や車軸、タイヤ等の機構部品が入っているレゴのシリーズ)をがんばっています。最近はモータのある製品を買い足したので、さらにいろいろもっと遊べますね。子供を理系方向へと誘導して います(笑)。

▶大野先生も趣味をお持ちですか?
大野 子供のころからずっと続けている趣味は将棋で、高校の頃は県の大会で優勝したこともあるくらい一生懸命やっていました。最近は「観る将」っていう言葉があるんですが、インターネットで一応毎日棋譜はチェックしています。またまた余談ですが、大分昔に、瀬戸でオーケストラをやってる核融合研究仲間に、メンバーの方から「うちの子供は一日中将棋ばっかりしてますが大丈夫でしょうか」と相談があったんです。「将棋は頭にいいからいいと思いますよ。」なんて答えたんですが、それが藤井聡太さんのお母さんだったと後から分かって驚きました。一日中将棋をする小学生って、集中力がすごいですよね。
▶では、そんな未来ある若者にメッセージを。
大野 太陽電池や核融合はもちろん、例えば半導体を作るプロセスの80%以上でプラズマの技術が使われていて、
「2nm(ナノメートル)で溝を彫る」みたいな話も、プラズマの技術を高めないとできない話なんです。最近ですと生物にプラズマを当てると生育が早くなるということで生物の人たちと一緒に仕事をしたり、材料の人と一緒に仕事をしたりします。プラズマの技術が一つの軸になって、分野の横断で海外の人たちともどんどん繋がりを持って、半導体を良くしたり太陽電池を安くできたり、エネルギー問題を解決に向けられたらとてもいい世界が来ると思います。ぜひそういう所へ進んでもらえたらと思います。

文:IMaSS広報委員会(池永英司、小西雅代) ~『IMaSS NEWS Vol.14』特集より抜粋