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研究グループ紹介

笠原研究室

ロケットエンジンも革新的な軽量化へ突入!
デトネーションエンジンの宇宙での実証実験に成功!(世界初)

宇宙でエンジン点火に成功したところ。右に写っているのは地球《©名古屋大学、JAXA》
デトネーションエンジンの次号機開発に取り組んでいる笠原研究室の皆さん

「5、4、3、2、1、ゼロ(発射っ!)、1、2、3、…」。爆音と閃光を放ちながら空へ、高く高く飛んでいくロケット。打ち上げはひとまず成功、さてこれからが勝負! 切り離し後の点火はうまくいくか、観測データは回収できるか、写真はうまく撮れているのか、心臓バクバク…。
2021年7月27日午前5時30分、鹿児島県肝付町にあるJAXAの宇宙空間観測所から、多くの注目や期待を背負いながらデトネーションエンジンの宇宙空間での実証実験を行い、見事世界で初めて成功させた笠原研究室のみなさん。今回は、デトネーションエンジンとはどんなものなのか、そして実証実験でそれぞれ担っていたことや想いなどについてお話を伺いました。

 

なぜデトネーションエンジンの開発が必要なのか。
—–  早速ですが、デトネーションエンジンシステム(DES)について教えてください。

笠原 「デトネーション(detonation)」っていうのは「爆発的燃焼」や「爆轟(ばくごう)」などと訳されますが、燃料と酸素の混合ガスが爆発的に反応する際に生じるものすごい衝撃波を、安全にかつ効率よく推力へ変換するエンジンです。今回の実験では、衝撃波を1/1000~1秒ほどの間隔で発生させるパルスデトネーションエンジン(PDE※1)と、二重円筒の中で衝撃波をグルグル回転させて伝播させ維持する回転デトネーションエンジン(RDE※2)を組み合わせたDESをロケットに載せました。

教授 笠原 次郎名古屋大学のマークの入った青い作業着を着用して話をしている。

笠原 次郎 教授

—–  ロケットに特化したエンジンなんですか?

笠原 現段階ではそうですが、将来的にはジェットエンジンや発電用タービンの燃焼機への応用を考えています。デトネーションの場合はあっという間に燃えるので、タービンの中で駆動しながら燃やすっていう、これまで分かれていた分野を融合するようなことが可能になってくるんです。それができると、大きかったものがコンパクトになって、翼の外についているジェットエンジンなんかは、中に埋め込めてしまうような。

—– そうすると、空気抵抗も少なくなる上に機体は軽くなりますね。

笠原 そうです。しかも、大きいものを作るには広い場所が必要ですが、作る場所も狭くて済みます。素子をいくつにも分けることも可能だと考えています。一つ一つのパッケージが小さくなって、ユニット化していくことが飛行機やロケットの世界も必要ですが、デトネーションを有効利用できれば、もっと小さくすることが可能になると思います。

—– なぜ宇宙での実験が必要だったのですか?

笠原 大きく分けて2点。1つは、地上での燃焼試験では固定することになり、一方向の推力しか計測できないんです。もう1つは、地上ですと真空チャンバーを使っても、すぐに排気ガスが溜まって全然真空ではなくなってしまうので、真空状態でエンジンが吹く様子を確認できません。その点、今回はいずれも正確な情報が取れました!

—– ロケット発射当日のことを教えてください

笠原 当日は天気が良くて、打ち上げは朝の5時半だったんですが、ちょうど夜明け頃、まずは観測ロケットS-520-31号機の打ち上げがありました。20秒間は固体燃料ロケットがダーッと噴射して空に向かって上へ上へ、その後は慣性飛行なんですが、60秒後に下部の固体燃料部分から分離し、120秒後にRDEが噴射、240秒後からは代わってPDE5回の噴射を30秒おきに3シリーズ。非常に短い時間での重要な実験です。

心強い「ロケット打ち上げのプロ」
—– 松山特任教授は、ロケット打ち上げのプロフェッショナルと伺いました。

松山

三菱重工に入社し、ロケットエンジンを制御するための電子機器開発からスタートして、段々エンジン全体の開発を、最後はプロジェクトマネージャまで、約20年間くらいロケットエンジンの開発をやっていました。その後は本社の方へも一時行きましたが、やはりエンジニアリングのことをやりたいと、HTVこうのとり※3)という宇宙機を打ち上げるプロジェクトで7年ほどプロジェクトマネージャを務め、4号機まで、4機打ち上げました。

松山 行一 特任教授

—– どんなきっかけで今回のプロジェクトに参加されることになったんですか?

松山 笠原先生の方はロケットに載せるデトネーションエンジンを開発するわけですが、実際に打ち上げるためにはロケットに詳しい人が必要ということで、先生が人材を探しておられるときに、たまたまそれを知った共通の友人から紹介されて、採用いただきました。それが2019年8月。今回担当しているのは、デトネーションエンジンの作動を制御しながら、いろんな圧力や温度などのデータを取って収集する電子装置の開発です。

—– それらの重要なデータはどのように回収されたんでしょうか。

松山 通常のロケットと同じように機体の搭載機器を経由して電波で地上に送信しました。さらに、今回この実証実験の大量のデータを回収するためにJAXARATS※4が開発され、ノーズコーンの部分に入っていたんですが、実験を終えたロケットから分離後、予定された海域に着水。すぐにヘリコプターで回収され、私が回収拠点がある種子島宇宙センターに行ったとき(13時頃)には既にUSBは取り外され、レディーな状態でした。USBが手渡され、PCに挿入するとデータは問題なく認識できることを確認しました。

宇宙工学に化学の目を取り入れる
—– 伊東山特任助教の専攻は、航空宇宙系ではないんですね。

伊東山 はい、私のバックボーンはガチガチの化学屋さんなんです。デトネーションってやはり危ない現象、危ないガスを扱うということで、今回の実験ではどういう風に安全を図るのがよいかということを、化学屋さん目線からコメントしたり、ハンドリングの動きがメインでした。例えば、ガスを扱う際の材料適合性であったり、精錬(金属から不純物を取り除くこと)、摩擦や静電気、そういった外的要因に対するリスクにきちんと対応するといったことです。

伊東山 登 助教

—– どんなことが大変でしたか?

伊東山 予想外に難しいと思ったのは、我々の開発したものをJAXAさんのロケットに載せる際の、インターフェイスの調整です。電気的な接続が問題ないか、例えば向こうが設けているねじ穴に、我々の設けたねじははまるのか。そういったところを、図面を見ながら調整しなければいけないし、1ミリでもずれていたら取り付けられません。なので図面通りにできているか、そもそも図面は間違っていないかといった確認で、かなりいろんな会議や実験をしました。

—– トリガーの着火の部分もキーになるのでは?

伊東山 おっしゃる通り、着火も化学反応でちゃんと見ないといけない。なぜその反応が、どのタイミングから加速するかがわかれば、逆に考えるとどうやって燃料を開発したらいいかがわかり始めるんです。こういった物質が重要だねっていうことがわかれば、それを入れてみるっていうことができるんです。今日は、現在研究中のエンジンとデトネーションのポテンシャルがある燃料を持ってきました。

 

チーム KASAHARA
—– 今回の成功を導けた最大の要因は?

笠原 絶対に壊れない、熱的にも大丈夫ということを2年かけて何度も何度も確認したということに表れているように、宇宙で飛ばすことに向けてみんなが一丸となって取り組んだ、高いチームワークが最大の要因でしょうか。

—– まだまだお聞きしたいことは尽きませんが、次号機の予定は?

笠原 そうですね、まずは今回の結果を論文にしてからですが、2年後を目指してすでに次計画の準備もスタートしています。

【用語解説】

1 PDE
(=Pulse Detonation Engine)デトネーションを発生させることで高圧ガスを発生させ、それを間欠的(パルス状)に噴射し、その反動として推力を得る装置。↑本文へ戻る

※2 RDE
(=Rotating Detonation Engine)デトネーションを二重円筒内の底部に周回(回転)し続けるように発生させることで高圧ガスを発生させ、それを円筒の軸方向に噴射し、その反動としての推力を得る装置。↑本文へ戻る

※3 こうのとり
JAXAが開発した、地上から荷物を持って運ぶ宇宙ステーションへの補給機。ロケットでまず打ち上げてもらって、宇宙空間を宇宙ステーションまで自力で飛行し、ドッキングして、荷物を降ろし、要らない荷物を積んで、宇宙ステーションから離脱し、最後大気圏に突入して燃え尽きる、廃棄される使命を負っていた。↑本文へ戻る

※4 RATS
(=Reentry and Recovery module with deployable Aeroshell Technology for Sounding rocket)観測ロケット実験データ回収モジュール(既開発カプセルの発展版)↑本文へ戻る

文:IMaSS広報委員会(池永英司、小西雅代) ~『IMaSS NEWS Vol.12』特集より抜粋