
【本研究のポイント】
- 固相界面活性剤注1)を利用した二次元酸化物合成において、これまで経験的だった「組成制御」の設計原理を体系化。
- 酸化セリウム(CeO₂)ナノシート注2)に対し、希土類元素(レアアース)(La, Pr, Sm, Gd, Yb, Y, Sc)を精密にドープできることを実証。
- 界面活性剤結晶中への元素取り込みはイオン半径に強く支配され、その後のナノシート形成過程では金属錯体の反応性が組成変化を決定することを発見。
- 固相界面活性剤法を、単なる経験的合成法から「組成設計可能なナノシート合成プラットフォーム」へ発展。
- エネルギー材料・触媒・イオン伝導材料など、次世代酸化物ナノ材料設計への応用が期待。
【研究概要】
名古屋大学未来材料・システム研究所(IMaSS)の伊東 健太郎 博士後期課程学生、山本 瑛祐 助教、長田 実 教授らの研究グループは、あえて溶かさない固相界面活性剤を鋳型として利用する独自の二次元材料合成法を発展させ、非層状酸化物ナノシートの組成を精密に制御するための設計指針を確立しました。近年、酸化物ナノシートは電子材料・触媒・エネルギー変換材料として注目を集めています。しかし、従来のナノシート合成法では、組成を自在に制御することが難しく、特に「非層状酸化物」に対する精密ドーピング技術はほとんど確立されていませんでした。本研究では、界面活性剤と金属イオンから形成される「固相結晶」を反応場として利用することで、酸化セリウムナノシートへの希土類元素ドーピングを系統的に調査しました。その結果、前駆体となる固相界面活性剤結晶では、金属イオンの取り込み量が単純な仕込み組成ではなく、イオン半径に基づく選択的取り込みによって決定されることを明らかにしました。さらに、その後のナノシート形成過程では、金属錯体の反応性の違いによって組成が変化することを発見しました。研究グループは、これら二つの効果を制御することで、目的組成を持つ酸化物ナノシートを実現しています。本成果により、固相界面活性剤法は経験的な合成法から、組成を自在に設計可能な合成プラットフォームへと発展しました。
本研究成果は、2026年5月19日付(日本時間)米国科学誌『Advanced Science』に掲載されました。
【研究背景と内容】
二次元(2D)ナノ材料は、原子レベルの薄さに由来する特異な電子状態や高い表面活性を示すことから、次世代電子材料やエネルギー変換材料として世界的に注目を集めています。特に酸化物ナノシートは、高い化学的安定性や多様な電子・イオン機能を示すため、触媒、センサー、電池材料、イオン伝導体などへの応用が期待されています。これらの材料では、異種元素を導入する「ドーピング」が極めて重要です。ドーピングによって電子状態や欠陥構造、イオン移動特性などを制御することで、材料性能を大きく向上できるためです。一方で、従来広く用いられてきたナノシート合成法は、層状結晶を剥離するトップダウン型手法でした。この方法では、もともと層状構造を形成できる限られた組成しか利用できず、材料設計自由度に大きな制約がありました。これに対し近年では、非層状酸化物から直接ナノシートを形成する「ボトムアップ型」合成法が注目されています。しかし、これらの手法では、どの元素がどの程度ナノシートへ導入されるのかを予測することが難しく、組成制御は経験的に限られた組成で行われていました。そのため、非層状酸化物ナノシートに対して、組成を自在に制御するための一般的設計原理を構築することが大きな課題となっていました。研究グループは、界面活性剤と金属イオンから形成される「固相界面活性剤結晶」を利用しました (図1)。あえて溶かさずに作るこの結晶は層状構造を持ち、その層間空間を二次元反応場として利用できます。しかし、本手法におけるナノシート合成では、ナノシート組成を経験的に制御できることは分かっていましたが、その設計原理まで踏み込んだ調査は行われていませんでした。

図1 固相界面活性剤を用いた非層状ナノシート合成
本研究では、セリウム(Ce) と希土類元素(La、Pr、Sm、Gd、Yb、Y、Sc)を含む固相界面活性剤結晶を作製し、どの元素が優先的に結晶へ取り込まれるのかを系統的に調査しました。その結果、イオン半径の大きい元素ほど、固相界面活性剤結晶へ優先的に取り込まれることを発見しました。例えば、ランタン(La) のような比較的大きなイオンは高濃度で導入される一方、スカンジウム(Sc) のような小さいイオンでは導入量が大きく低下することが分かりました。さらに、形成した固相界面活性剤結晶をアンモニア水蒸気で処理し、その後ホルムアミド中で熟成することで、希土類元素をドープしたセリアナノシートを形成しました。この際、最終的なナノシート組成は、前駆体や亜アンモニア蒸気処理後の中間体結晶組成と完全には一致しておらず、金属イオンごとの加水分解・縮合の反応性によってさらに組成が変化することが分かりました。つまり、本研究では、前駆体形成段階での「取り込み選択性」、ナノシート形成段階での「反応性」という二つの独立した要因が、最終組成を決定していることを明らかにしました(図2)。この知見を利用することで、目的組成を持つ非層状酸化物ナノシートを合理的に設計できることを示しました。

図2 金属イオンの種類と界面活性剤およびナノシートへの取り込みの関係
【成果の意義】
本研究は、固相界面活性剤法による非層状酸化物ナノシート合成において、「どの元素がどの程度導入されるのか」を予測・制御するための原理を初めて示した点で重要です。これまで固相界面活性剤法は、新しい二次元材料を作り出せる一方で、組成制御に関しては経験的な側面が強く残されていました。本研究により、元素導入の支配因子を整理・体系化したことで、今後は目的機能に応じたナノシートを合理的に設計できる可能性が広がります。特に、酸化物ナノシートは、触媒、イオン伝導体、電子材料、エネルギー変換材料などへの応用が期待されており、本研究成果はそれらの材料設計基盤として重要な意味を持ちます。また、本研究は、非層状酸化物を対象とした二次元材料科学そのものの発展にもつながる成果であり、今後さらなる多元素系・高機能材料への展開が期待されます。
本研究の一部は、科学技術振興機構(JST)『創発的研究支援事業』研究課題「無機ナノシート界面が拓くイオン伝導体の革新(研究代表者:山本瑛祐、JPMJFR235Y)」、基盤研究(B) 研究課題「非層状化合物原子膜の精密合成と原子層エンジニアリングへの展開(研究代表者:山本瑛祐)」、基盤研究(B) 研究課題「アモルファス酸化物原子膜コロイドの超精密合成(研究代表者:山本瑛祐)」、科学研究補助金基盤研究(S) 研究課題「原子膜技術による革新的蓄電デバイスの創成(研究代表者:長田実)」、扶桑化学工業株式会社などの支援を受けて行われました。
【用語説明】
注1)界面活性剤:
分子内に親水的な官能基と疎水的な官能基を有する両親媒性物質。クラフト点と呼ばれる水和結晶の融点以下の温度で固相の結晶として析出する。(↑ 本文にもどる)
注2)ナノシート:
原子1層、数層からなる物質。代表的な物質として、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)がある。(↑ 本文にもどる)
【論文情報】
雑誌名: Advanced Science
論文タイトル: Tailored Synthesis of Doped Non-Layered Oxide Nanosheets Using Designed Solid-State Surfactants
著者: Kentaro Ito, Eisuke Yamamoto*(名古屋大学助教), Kohei Hayashi, Daiki Kurimoto, Makoto Kobayashi, and Minoru Osada* (名古屋大学教授)
DOI: 10.1002/advs.75720
URL: https://doi.org/10.1002/advs.75720
◆名古屋大学 研究成果発信サイトはこちら>>>
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2026/06/post-1008.html
◆名古屋大学のプレスリリース(本文)はこちら>>>
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload_images/20260601_imass.pdf
【研究者連絡先】
名古屋大学 未来材料・システム研究所
助教 山本 瑛祐(やまもと えいすけ)
E-mail:e-yamamoto[at]imass.nagoya-u.ac.jp
※[at]を@に置き換えてください


