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強誘電体のドメイン構造を原子レベルで解明
ペロブスカイト層数の「偶数・奇数」が支配する新たな設計原理を発見

《本研究のポイント》


【研究概要】

 名古屋大学未来材料・システム研究所の長田 実 教授らの研究グループは、層状ペロブスカイト強誘電体におけるドメイン構造の形成メカニズムを原子レベルで初めて解明しました

 本研究では、新型強誘電体 Cs(Bi2Srn–3)(Tin–1Nb)O3n+1(n = 3–5)注7)を対象に、走査透過電子顕微鏡解析を実施しました。その結果、奇数層(n = 3)では中性ドメイン壁のみが現れるのに対し、n = 4および5では中性と帯電ドメイン壁が共存するという本質的な違いを確認し、ペロブスカイト層数の偶奇性が、強誘電性の発現機構とドメイン構造を決定づけることを発見しました。

 特に、偶数層(n = 4)ではハイブリッド間接型強誘電体へと転移し、従来未解明だったドメイン構造の謎に迫る重要なモデル系であることが明らかになりました。これにより、ハイブリッド間接型強誘電体におけるドメイン構造の統一的理解を世界で初めて提示しました。本成果は、次世代メモリやナノ電子デバイス設計に新たな指針を与えるものと期待されます。

 本研究成果は、2026年4月21日付米国化学会材料化学誌「Chemistry of Materials」のオンライン速報版に掲載されました。

 

【研究背景】


 強誘電体は電場によって分極注8) が反転する機能性材料であり、不揮発メモリやセンサ、エネルギーデバイスなどへの応用が期待されています。従来の強誘電体では、強誘電性はイオン変位による構造歪みに起因しますが、ハイブリッド間接型強誘電体と呼ばれる新型強誘電体では、本来、強誘電性とは関係しない複数の非極性構造歪み注9) (八面体の回転や傾斜)の組み合わせによって強誘電性が誘起されるという特異な機構を持ちます。しかし、この複雑な起源のため、「なぜ特定のドメイン構造が形成されるのか」という基本的な問題は未解明のままでした。

 

【研究成果】


 本研究では、新型強誘電体である層状ペロブスカイトCs(Bi2Srn–3)(Tin–1Nb)O3n+1(n = 3–5)(図1)を対象に、走査透過電子顕微鏡(STEM)による詳細な構造解析を行いました。本系では、ペロブスカイト層数の偶奇性に応じて強誘電発現機構が変化し、層数が奇数(n = 3, 5)の場合には従来型のイオン変位により強誘電性が発現する変位型強誘電体(直接型強誘電体)であるのに対し、偶数(n = 4)の場合には新型のハイブリッド間接型強誘電体へと転移するという特徴を示します。この性質により、未解明であったハイブリッド間接型強誘電体のドメイン構造を解明するための重要なモデル系となります。

 本研究では、原子分解能のSTEMを用いて、強誘電性に関与するイオン変位をピコメートル精度で解析し、ドメイン構造およびドメイン壁近傍の構造を詳細に可視化しました(図2)。その結果、以下の重要な知見を得ました。
 (1) 奇数層(n = 3)では中性ドメイン壁のみが形成されるのに対し、偶数層(n = 4)および高次奇数層(n = 5)では、中性ドメイン壁と帯電ドメイン壁(図3)が共存する。
 (2) 高次層では局所欠陥の増加が見られ、これが帯電ドメイン壁の安定化に寄与している(図4)。
 (3) 特に偶数層(n = 4)のハイブリッド間接型強誘電体では、単位格子厚さレベルの極めて微細なドメイン構造が形成されることを確認した。これは従来の強誘電体には見られない新しい現象である。

 以上の結果から、Cs(Bi2Srn–3)(Tin–1Nb)O3n+1におけるドメイン構造の違いは、「対称性」「分極の層内不均一分布」「欠陥による緩和」という三つの要因が協働することで生じることを明らかにし、ハイブリッド間接型強誘電体のドメイン構造に対する統一的理解を提示しました。

 

図1:層状ペロブスカイト強誘電体Cs(Bi2Srn–3)(Tin–1Nb)O3n+1の結晶構造(a)とSTEM像(b) 結晶構造解析(a)から、本系ではペロブスカイト層数の偶奇性に応じて強誘電発現機構が変化し、層数が奇数(n = 3, 5)の場合には従来型の変位型強誘電体(直接型強誘電体)であるのに対し、偶数(n = 4)の場合には新型のハイブリッド間接型強誘電体へと転移するという特徴が明らかになった。STEM像(b)では、白い輝点が原子カラムの位置に対応しており、3層系、4層系、5層系特有の積層構造を確認した。

 

図2:STEMにより評価した層状ペロブスカイト強誘電体Cs(Bi2Srn−3)(Tin−1Nb)O3n+1のドメイン構造
ドメイン構造の評価のため、強誘電性に関与するBiおよびSrイオンの変位をピコメートル精度で解析した結果。赤色および青色の領域は、それぞれ結晶の[−110]および[1−10]方向への正味変位に対応。解析分解能以下(≤ 1 pm)の変位は、緑色および水色で示した。赤色および青色の矢印が揃っている領域が、分極の向きが揃った微小領域(ドメイン)に相当する。
奇数層(n = 3)では中性ドメイン壁のみが形成されるのに対し、偶数層(n = 4)および高次奇数層(n = 5)では、矢印が揃っている領域(ドメイン)が小さくなり、中性ドメイン壁と帯電ドメイン壁が共存する。

 

図3:中性および帯電180°ドメイン壁構造の模式図
中性ドメイン壁は、分極方向(矢印)の異なる2つの領域(ドメイン)の境界において電荷の過不足が生じず、静電エネルギーが最小となる安定な界面。他方、帯電ドメイン壁は、分極方向が異なる領域(ドメイン)の境界に電荷が蓄積した界面。中性ドメイン壁は、通常、分極方向と平行に形成され、帯電ドメイン壁のように強くピン止めされないため、比較的容易に移動できる性質がある。

 

図4:CsBi2SrTi3NbO13 (n = 4)におけるドメイン壁の構造評価
(a) 積層欠陥を含む領域のSTEM像。(b) 図a中の点線領域の拡大像。 (c) 積層欠陥近傍の原子スケール像とSTEM像で観察された界面転位を示す構造モデル。
原子分解能STEM解析では、ペロブスカイト層の局所的な厚さ変調に対応する特徴的な欠陥構造が明らかとなり、具体的には (6層→4層→4層→4層→5層) および (4層→4層→4層→4層→3層) といった配列が観察された(図b)。これらの層界面では、Bi または Cs の原子カラムが顕著に明るく観察され、Bi³⁺ または Cs⁺ イオンの移動あるいは集積を示唆している(図c)。高次層(n ≥ 4)では、隣接する n 相間の自由エネルギー差が次第に小さくなり、その結果、高次層が融合した積層欠陥の自発的形成が促進されることが明らかになった。

 

【成果の意義】


 本研究は、ハイブリッド間接型強誘電体におけるドメイン構造の形成原理を初めて体系的に明らかにしたものです。この成果により、ドメイン構造を制御した新しい電子デバイス設計、ナノスケールでの分極制御、高機能強誘電体材料の合理設計への道が開かれます。特に、ドメイン壁そのものを機能として活用する「ドメインエンジニアリング」において、本研究が提示する偶奇性に基づく設計指針は重要な役割を果たすものと期待されます。

 

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金・基盤研究(S)「原子膜技術による革新的蓄電デバイスの創成(代表者:長田 実)、JP21H05015」、科学研究費補助金・挑戦的研究(萌芽)「ペロブスカイトの未踏物質探索と間接型強誘電体の開拓(代表者:長田 実)、JP25K22296」、文部科学省・国際・産学連携インバースイノベーション材料創出プロジェクト(DEJI2MA)、未来材料・システム研究所共同利用・共同研究プログラム、未来材料・システム研究所萌芽的共創研究などの支援を受けて行われました。

 

【用語説明】


注1) 走査透過電子顕微鏡(STEM)
 電子線を試料に走査しながら透過電子を検出する電子顕微鏡。原子レベルの分解能で物質の構造を観察できる。 (↑ 本文に戻る)

注2) ペロブスカイト
 ロシアの科学者ペロフスキーによって発見された天然鉱物灰チタン石(CaTiO3)。一般式ABO3で表され、TiO6八面体を基本ユニットとした構造。代表的な物質にチタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸鉛(PbTiO3)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:略称PZT)などがあり、強誘電体に好適な構造として知られている。さらに、関連化合物として、ペロブスカイト型構造が他のブロック構造と交互に積層した層状ペロブスカイトがある。層状ペロブスカイトは、層間のブロック構造により、酸化ビスマス層が内包したAurivillius型、アルカリ土類金属イオンが内包したRuddlesden-Popper型およびアルカリ金属イオンが内包したDion-Jacobson型がある。 (↑ 本文に戻る)

注3) 強誘電体
 絶縁体の一種で、外部より与える電圧の向きに応じて電気分極のプラス、マイナスが反転し、しかも電圧がゼロとなっても分極が保たれる性質を持つ物質。強誘電性を利用したメモリは、高速書き換えが可能、電源を切っても記憶内容が消えない、消費電力が少ないなどの優れた特徴があり、電車のICカードなどで広く使用されている。また、強誘電体は、押したり引っ張ったりして結晶を変形させることで電場が発生し、逆に電場をかけることによって結晶が変形したりする圧電性を併せ持つ。この圧電性は、インクジェットプリンタのヘッド、3Dプリンタのマイクロデバイス、各種アクチュエーター、振動発電床などとして広く用いられている。 (↑ 本文に戻る)

注4) ドメイン構造
 強誘電体結晶内に混在する、分極の向きがそろった微小領域(ドメイン)。メモリ素子やセンサに応用され、外部電場によって分極の向きを変え(反転)、保持できる性質を有する。180度ドメイン壁や90度ドメイン壁などの境界が存在し、分極反転によりこの壁が動くことで強誘電性が発現する。 (↑ 本文に戻る)

注5) ハイブリッド間接型強誘電体
 八面体の回転や傾斜といった構造変化が連動し、結晶構造の反転対称性を破ることで自発分極が生じる新しい強誘電体。原子変位により直接的に強誘電性が発現する従来モデル(直接型モデル)に対して、副次的に強誘電性が発現するため、ハイブリッド間接型強誘電体と呼ばれる。主に層状ペロブスカイトで研究が進んでいる。 (↑ 本文に戻る)

注6) 中性ドメイン壁、帯電ドメイン壁
 中性ドメイン壁は、分極方向の異なる2つの領域(ドメイン)の境界において電荷の過不足が生じず、静電エネルギーが最小となる安定な界面。他方、帯電ドメイン壁は、強誘電体内部で分極の向きが異なる領域(ドメイン)の境界に、電束密度の不連続性によって電荷が蓄積した界面。中性ドメイン壁は、通常、自発分極の方向と平行に形成され、帯電ドメイン壁のように強くピン止めされないため、比較的容易に移動できる性質がある。他方、帯電ドメイン壁は高い電気伝導性や特異な機能を示し、次世代の高速・低消費電力メモリや電子素子(メモリスター)への応用が期待されている。 (↑ 本文に戻る)

注7) 新型強誘電体 Cs(Bi2Srn–3)(Tin–1Nb)O3n+1(n = 3–5)
 研究グループオリジナルの層状ペロブスカイト強誘電体。分子レベルの積木細工により、従来合成が困難とされていた多層ペロブスカイト(Cs(Bi2Srn−3)(Tin−1Nb)O3n+1; n = 4, 5)の合成に初めて成功した。
名古屋大学プレスリリース(2024.09.03)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/09/post-717.html
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注8) 分極
 固体中で、正の電荷と負の電荷が空間的に分離することで、反転対称性を破った状態。強誘電体の場合には、外部電場を加えると、この電荷のバランスが変化し、強誘電体内の領域(ドメイン)全体が同じ方向を向く。 (↑ 本文に戻る)

注9) 非極性構造歪み
 主に八面体の回転や傾斜を指す。これらの非極性構造歪み自体は分極を持たないが、非極性構造歪みが主原因となって副次的に分極を引き起こし、間接的に強誘電性を発現させる。 (↑ 本文に戻る)

 

【論文情報】


論文誌 :Chemistry of Materials
タイトル:Atomic-Scale Visualization of Competing Polar Orders in Dion–Jacobson Layered Perovskites
著 者(研究当時):
森田 秀(名古屋大学大学院工学研究科・博士課程3年)
西橋慧太(名古屋大学大学院工学研究科・博士課程1年)
丹羽慧人(大阪公立大学大学院工学研究科・修士課程2年)
小林 亮(名古屋大学未来材料・システム研究所・准教授)
山本瑛祐(名古屋大学未来材料・システム研究所・助教)
漆原大典(名古屋工業大学生命・応用化学類・助教)
浅香 透(名古屋工業大学生命・応用化学類・准教授)
笠井秀隆(大阪公立大学大学院工学研究科・准教授)
森 茂生(大阪公立大学大学院工学研究科・教授)
長田 実*(名古屋大学未来材料・システム研究所・教授)*責任著者

DOI: 10.1021/acs.chemmater.5c03317
URL: https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.chemmater.5c03317

 

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研究者連絡先


名古屋大学未来材料・システム研究所
教授 長田 実(おさだ みのる)
URL: https://mosada-lab-nagoya.com/
E-mail: mosada[at]@imass.nagoya-u.ac.jp ※メール送信の際は[at]を@に置き換えてください。