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究極の薄さのアモルファスシリカ:界面活性剤でつくるナノの反応容器で実現 ~次世代の電子デバイス、エネルギー分野での応用に期待~

 
本研究のポイント

 〇厚さ1nm以下のアモルファスシリカ注1)ナノシート注2)の合成に成功。
 〇アモルファスナノシリカが安定に分散したコロイド注3)溶液が得られており、1nmレベルで厚さを制御した緻密集積膜の構築を実現。

 

【研究概要】



 東海国立大学機構名古屋大学大学未来材料・システム研究所の山本 瑛祐 助教と長田 実 教授らの研究グループは、従来は溶解させてから鋳型利用する界面活性剤注4)をあえて溶かさずに、層状固体のまま利用し、その隙間で合成したアモルファスシリカを剥離することで、厚さ0.9 nmのアモルファスシリカナノシートの合成に成功しました。
 アモルファスシリカのナノシートは、優れた機械的特性や広いバンドギャップ注5) を示すことが期待されており、次世代の電子デバイス、エネルギー分野での応用が見込まれます。しかしながら、アモルファスシリカの場合には、一般的な合成手法である層状化合物の剥離によるナノシート合成が困難でした。
 本研究では、ナノシートは非常に安定に分散したコロイド溶液として得られており、精密集積により1 nmレベルで厚さを制御した極薄膜の構築にも成功しました。アモルファスシリカは絶縁膜やフィラー、プロトン伝導体として様々な分野で利用される汎用的な素材であり、アモルファスシリカ超薄膜の活用法に新たな指針を与えるものと思われます。
 本研究成果は、2023年2月28日付国際誌「Small」に掲載されました。

 

 

[研究背景]



 シリカは地殻上に大量に含まれる物質であり、その構造や形態制御による有効活用は、資源制約を克服するための元素戦略上極めて重要な課題です。こうした構造や形態制御のターゲットの一つとして、原子や分子レベルの厚さを有する二次元ナノシートが注目を集めています。一般的に、ナノシートは元々の三次元物質とは異なる特性や機能を示し、原子レベルの薄さと二次元ナノ構造に起因した、特異なイオン・電子伝導特性を示すことが知られています。特に、アモルファスシリカのナノシートは、優れた機械的特性や広いバンドギャップを示すことが期待されており、次世代の電子デバイス、エネルギー分野での応用が見込まれます。しかしながら、アモルファスシリカは非層状物質であるため、一般的な合成手法である層状化合物の剥離によるナノシート合成が困難でした。これまでに、界面活性剤の液晶注6)を鋳型として合成したアモルファスシリカ-界面活性剤層状物質の剥離を検討した報告もありましたが、いずれも剥離が十分に進行しないために厚いものしか得られておらず、新しい合成方法の開発が待ち望まれていました。

 

[研究成果]



 本研究では、アモルファスシリカナノシートの合成を実現する方法として、固体の界面活性剤をあえて溶かさずに層状固体のまま利用し、その隙間でアモルファスシリカを析出させてから剥離する方法を検討しました(図1左)。一般的に、界面活性剤を鋳型としたナノ材料の合成には、界面活性剤を一度溶かしてミセル注7)にしてから、無機種と協奏的に自己集合させることで鋳型となる液晶を作り出します。これに対し、本研究では剛直な鋳型としてクラフト点注8)以下で形成する固体相の界面活性剤を利用し、その層間でアモルファスシリカを析出させました。このようにして合成したアモルファスシリカは、単層で剥離することを見出し、原子間力顕微鏡(AFM)注9)測定により厚さ0.9nmのアモルファスシリカナノシートの合成を実現しました(図1中)。
 さらに、アモルファスシリカナノシートが非常に安定に分散したコロイド溶液も得られており、数ヶ月後にも凝集しないほどの高い分散安定性を示すことが分かりました(図1右)。さらに、ラングミュアー膜注10)を利用した精密集積により、1nmレベルで厚さを制御した極薄膜の構築にも成功しています。構築した極薄膜は、+1Vの電圧を印加した際の電流密度が10-9 A cm–2 と極めて優れたリーク電流注11)特性を示すことを確認しました。

 

[研究成果の意義と今後の展開]



 本研究では、固体相の界面活性剤を鋳型として利用するという二次元材料創製の新しい手法を提案し、これまでに合成の達成されていなかった新しいナノシートである、アモルファスシリカナノシートの合成に成功しました。アモルファスシリカは絶縁膜やフィラー、プロトン伝導体として様々な分野で利用される汎用的な素材であり、アモルファスシリカ超薄膜の活用法に新たな指針を与えると期待されます。

図1.(左)界面活性剤固体を鋳型として利用したアモルファスシリカナノシート合成のイメージ図。 (中)原子間力顕微鏡(AFM)像。 (右) アモルファスシリカナノシートの分散したコロイド溶液の外観写真。

 

 本研究の一部は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 さきがけ研究 研究課題「イオン伝導性原子膜の能動的制御と中低温イオニクス材料の創製(研究代表者:山本瑛祐、JPMJPR19TA)」、科学研究補助金基盤研究(S) 研究課題「原子膜技術による革新的蓄電デバイスの創成(研究代表者:長田実)」、基盤研究(B) 研究課題「非層状化合物原子膜の精密合成と原子層エンジニアリングへの展開(研究代表者:山本瑛祐)」の支援を受けて行われました。 

[用語解説]


 
注1)アモルファスシリカ

 ケイ素と酸素からなる化合物のうち、二酸化ケイ素によって構成される物質のことをシリカと呼ぶ。アモルファスシリカは、シリカの中でもその構造に長距離規則性が無く、無秩序な構造を有する物質。 本文に戻る)

注2)ナノシート
 原子1層、数層からなる物質。代表的な物質として、グラフェン、六方晶BN、遷移金属カルコゲナイド(MoS2、WS2など)がある。 本文に戻る)

注3)コロイド :
 ある物質が微小な状態(今回の場合にはナノシート)で、他の相(今回の場合にはエタノールなどの溶媒)に分散した物質状態。 本文に戻る)

注4)界面活性剤 :
 分子内に親水的な官能基と疎水的な官能基を有する両親媒性物質。 本文に戻る)

注5)バンドギャップ
 バンド構造における電子に占有された最も高いエネルギーバンドから、最も低い空のバンドの底までの間のエネルギーの差。 本文に戻る)

注6)液晶
 分子がある程度の規則的を保ちつつ僅かに動くことができる、固体と液体の中間相。 本文に戻る)

注7)ミセル
 界面活性剤がある一定以上の濃度で溶媒に溶解すると形成する構造体。一般的に、親水的な溶媒中では、界面活性剤が親水的な官能基を溶媒側に向け、疎水的な官能基同士が集まるように自己集合することで形成する。 本文に戻る)

注8)クラフト点 :
 界面活性剤の溶解度曲線の溶解度が急激に立ち上がる温度。クラフト点以下では界面活性剤はミセルを形成せず、規則的に界面活性剤分子が配列した固体相として存在する。 本文に戻る)

注9)原子間力顕微鏡(AFM)
 先端を尖らせた針を試料上で走査して、針が感じる原子間力を電気信号に変える事で表面の形状や高さを測定する装置。 本文に戻る)

注10)ラングミュアー膜
 両親媒性物質を水面上に展開したときにできる、物質一層の厚みをもつ膜。一般的には両親媒性物質として界面活性剤などの分子が用いられることが多いが、ナノシートなどの分子レベルの厚みを有する物質も同様にラングミュアー膜を形成する。 本文に戻る)

注11)リーク電流特性
 電子回路上で絶縁されているにも関わらず漏れてしまう電流。  本文に戻る)

 

[論文情報]


 
論文誌:Small
論文タイトル:Free-standing Molecularly Thin Amorphous Silica Nanosheets
著者:Eisuke Yamamoto (名古屋大学助教), Kosuke Fujihara (元名古屋大学大学院生), Yuma Takezaki (名古屋大学大学生), Kentaro Ito(名古屋大学大学院生), Yue Shi(名古屋大学研究員), Makoto Kobayashi (名古屋大学准教授), Minoru Osada (名古屋大学教授)

DOI: 10.1002/smll.202300022
URL: https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/smll.202300022

 

名古屋大学 未来材料・システム研究所
長田 実 研究室 HP

http://mosada-lab-nagoya.com/


◆名古屋大学 情報サイトはこちら>>>
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/03/post-468.html

◆名古屋大学のプレスリリース(本文)はこちら>>>
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload/20230303_imass.pdf

研究者連絡先

東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所
助教 山本 瑛祐(やまもと えいすけ)
E-mail : e-yamamoto[at]imass.nagoya-u.ac.jp