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RESEARCH

簡便な計測に基づく新しいトモグラフィ手法を開発
~核融合発電における装置壁の熱負荷軽減などに貢献~

本研究のポイント

トモグラフィ解析注1)と統計的手法を組み合わせた新しい計測解析手法を開発した。

核融合非接触ダイバータプラズマ(注2)中で発生する磁場を横切るプラズマ輸送の時間(1次元)と空間(3次元)にわたる4次元的な時空間挙動を抽出した。

〇 未来のエネルギー源の一つとされる核融合装置壁の熱負荷低減につながる。

〇 開発された手法は宇宙機スラスタなど他分野にも応用可能である。

 

【研究概要】



 名古屋大学未来材料・システム研究所の田中 宏彦 准教授、大学院工学研究科の大野 哲靖 教授らの研究グループは、東海大学の夏目 祥揮 特任講師および東京大学の梶田 信 教授との共同研究で、トモグラフィ解析と統計的手法を組み合わせた新しいプラズマ計測手法を開発し、核融合非接触ダイバータプラズマの4次元的な時空間挙動を明らかにしました
 未来のエネルギー源として期待される磁場閉じ込め核融合発電炉において、装置壁への熱負荷の低減は極めて重要な課題の一つです。効果的な解決策として「壁の前面でプラズマを消す運転(非接触ダイバータ)」が期待されていますが、そのとき、磁力線を横切る間欠的なプラズマ輸送が増大する現象が報告されています。
 本研究は名古屋大学のもつ直線プラズマ装置を用いて、非接触ダイバータ環境を模擬し、高速カメラによる広域的な発光信号計測を行いました。同時計測された電気信号を使って、プラズマ輸送発生前後の発光挙動を取得し、短時間の剛体回転注3)を仮定した新しいトモグラフィ解析を適用しました。その結果、プラズマ放出が起こる前にはひずんだ回転構造が前駆体として現れ、その後、径方向に引き剝がされて円弧形状を形成しつつ輸送される様子が確認されました。本研究結果は、現象の物理理解を通じて、核融合装置壁の熱負荷のさらなる低減につながることが期待されます。
 本研究成果は、2024年4月23日付国際学術誌「Scientific Reports」に掲載されました。

 

 

【研究背景と内容】

 カーボンニュートラル社会実現の鍵として、未来のエネルギー源の一つである『核融合発電』の研究開発が国内外で加速しています。磁場閉じ込め核融合発電では、1億度を超える超高温プラズマを磁場のカゴにより閉じ込めますが、その一部が周辺に漏れ出て、磁力線に沿って耐熱性の材料(ダイバータ板)まで運ばれます。
 発電炉では、既存の装置をはるかに上回る高熱流プラズマが流出することから、壁前面で熱流束を十分に低減する手法を確立することが不可欠です。現在、最も期待されているのが、プラズマ-中性ガス相互作用によりプラズマを空間中で消す『非接触ダイバータ』です。近年の研究で、この非接触ダイバータ運転時に、磁力線を横切る間欠的なプラズマ輸送が増幅して現れることが種々の実験装置で観測されています。この輸送は壁面上のプラズマ分布を広げ、局所的な熱負荷のさらなる減少に寄与することから、その物理理解が求められています。
 理解機構の解明には、様々な実験条件における広域的なプラズマ輸送を計測し、輸送特性の各種パラメータへの依存性を調べることが有効です。ここで、高速カメラは、時空間の挙動を一度に取得可能な強力な計測器として知られていますが、得られる信号は原理的に視線方向の積分値となります。このような線積分信号から局所値の空間分布を求める手法として、医療用CTにも用いられるトモグラフィ解析が有名です。しかし一般に、同手法の適用には複数の角度から対象物を測定する必要があり、金属製の真空容器に囲まれたプラズマへの適用には一定の制限があります。
 本研究は、名古屋大学所有の直線プラズマ装置NAGDIS-IIにおいて、非接触ダイバータ環境を模擬し、軸方向に並んだ複数窓を同時に視野内に収めた高アスペクト比での高速カメラ計測を行いました。静電プローブを併用した条件付き平均計測注4)を行うことで、輸送発生前後における典型的な発光挙動を取得しました。本研究で対象とするプラズマは周方向に回転しており、短時間であれば剛体的に回転していることがわかっています。そのため、軸方向の各位置で、短時間(回転のおよそ半周期)の剛体回転を仮定した移動トモグラフィ解析注5)を条件付き平均信号に適用しました。これにより、一般的なトモグラフィと異なり、固定された高速カメラ1台(および同時計測された条件付き平均用の参照信号1つ)を用いた極めて簡便な計測に基づいて、磁場垂直面・軸・時間の4次元的な時空間輸送挙動を抽出することに成功しました。プラズマ放出が起こる前には、磁場垂直面内にひずんだ回転構造が前駆体として現れ、その後、径方向に引きはがされて円弧形状を形成しつつ輸送される様子が確認されました。
 本研究結果は、現象の物理理解を通じて、核融合装置壁における熱負荷のさらなる低減につながることが期待されます。さらに、今回開発された計測・解析手法は、プラズマへの擾乱(じょうらん)を最小限に抑え、熱負荷の制約を受けないものです。より高熱流のプラズマのほか、宇宙機スラスタなど他分野にも適用可能な手法であると考えられます。

 

【成果の意義】

 この研究では、トモグラフィと統計的手法からなる新しい解析手法を提案し、核融合非接触ダイバータプラズマから発生する磁力線を横切るプラズマ輸送現象の時空間挙動を明らかにしました。今後の物理理解を通じて、核融合装置壁における熱負荷のさらなる低減につながることが期待されます。さらに、提案手法は、擾乱を最小限に抑え、熱負荷の制約を受けず、簡便な計測に基づき高い時空間分解能で局所値の空間分布を評価可能という利点をもちます。得られた結果は、種々の回転構造への本提案手法の適用可能性を示すものです。
 本研究は、科研費、NIFS共同研究、日東学術振興財団の支援のもとで行われたものです。

 

【用語説明】

注1) トモグラフィ解析:
 物体を複数の角度から計測した線積分値から、局所的な値の空間分布を求める手法。一例として、医療用CT(Computed Tomography)では、エックス線を用いて物体の投影像を多数取得し、断面画像を再構成する。(↑ 本文に戻る)

注2) 核融合非接触ダイバータプラズマ:
 装置壁前面でプラズマを消す『非接触ダイバータ』運転時に生成されるプラズマ。同プラズマ(非接触プラズマ)中では、イオンと電子が空間中で再結合反応を起こし、中性粒子へと変化する。光、および粒子が磁力線の束縛を逃れることで熱流が分散され、装置壁面上の局所熱負荷が低減される。(↑ 本文に戻る)

注3) 剛体回転:
 角速度が半径に依存しない一定の回転。物体について、各部分の相対的な位置関係(≒形状)が変わらない回転のこと。(↑ 本文に戻る)

注4) 条件付き平均計測:
 同時計測された参照信号により、注目するイベントの発生時刻を検出し、その時刻を中心とした前後の信号を多数集めて平均化することで、典型的な時間発展を得る手法。(↑ 本文に戻る)

注5) 剛体回転を仮定した移動トモグラフィ解析:
 移動窓(窓関数)により切り出された信号に対し、回転周波数から求めた検出器と対象物の相対角度を使ってトモグラフィ解析を行う新手法。移動窓を動かすことで、窓幅より長い時間スケールにおける局所値分布の時間発展を得ることができる。(↑ 本文に戻る)

 

[論文情報]

雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Four-dimensional conditional averaging tomography of rotating plasma ejection from cylindrical detached plasma
著者:田中宏彦(名古屋大学 准教授), 梶田信(東京大学), 夏目祥揮(東海大学), 大野哲靖(名古屋大学 教授)
DOI:10.1038/s41598-024-59182-5
URL:https://doi.org/10.1038/s41598-024-59182-5

 



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研究者連絡先

東海国立大学機構 名古屋大学未来材料・システム研究所
准教授 田中 宏彦(たなか ひろひこ)
E-mail : h-tanaka[at]ees.nagoya-u.ac.jp