Research

Research Group

研究グループ紹介

中西・長谷川 研究室

多孔質材料を自在にデザインする
~ 暮らしに貢献するものづくりへ ~

中西・長谷川研究室のお二人

多孔質モノリス

 「多孔質」と言われる材料ってどんなものなのか頭に浮かびますか?小さい孔がひしめき合っているような物質で、よく観察していくとその孔がきれいに並んでいたり、きれいに並んでいないように見えて実は並びに法則があったり。自然界では、吸湿や消臭などの高い効果があることでも知られている珪藻土や炭、軽石、ゼオライトなどは多孔体※1です。多孔体の大きな特徴は、表面積がとても大きくなるので少しの量で多くの反応が起きること、孔(空洞)部分が多いのでとても軽いことなどが挙げられます。
 中西・長谷川研究室では、ゾル―ゲル反応とよばれる液相プロセスにより、無機セラミックス※2から有機高分子※3、有機―無機ハイブリッドに至るまで様々な多孔質材料の研究をしています。また、細孔構造の制御、および身近なものへの応用研究と幅広く手掛けているとのこと。それはどういうことなのか、また、研究の魅力についてといった話を伺いました。

 

この研究に携わるようになったきっかけ

▶多孔質材料を扱われているということですが、最初からこの研究を?
中西 最初大学で博士課程の途中までやっていたのは物理化学で、高分子の薄い膜中を、気体や蒸気などの小さい分子がどうやって通るかという、拡散透過という輸送現象を調べて測っていました。すごく地味な研究でしたが、当時は膜によるガス分離という技術はまだ黎明期でした。今ですと酸素だけをたくさん通す膜は当たり前にあるんですが、その基礎の部分がちょうど立ち上がりかけた頃だったんです。

▶いつから無機材料を扱われるように?
中西 全く分野の異なる無機材料の曽我直弘先生が、ある時急に「助手の席が空いたからどうですか?君、ポリマーやってたやろ?」と声をかけてくださいました。
ゾルゲル法※4っていう、ちょっと新しい無機材料の作り方がこの20年ほどで出てきてる。溶液から分子を繋いでいって重合※5反応でできるっていう過程は似たようなもんやから、出発物質は有機と無機で少々違っても、何か新しいことができるんちゃう?」みたいな。

▶それが今まで続いているんですか?
中西 そうですね。ただすごく幸運だったのは、当時1つ上の階に “きれいに混ざっていた高分子が分離していくときに、大きさや形の整った模様ができる” という、世界的に先駆的な研究をされた橋本竹治先生がおられ、自分の実験結果を解き明かす道筋の見本が近くにあったということ。自分で作ったものを電子顕微鏡で観たときに「高分子でできている模様と似てるな」と思い、「高分子で起こってることは、セラミックスができるときのゲルを作る溶液の中でも起こっている」という大胆な仮説を立てられたんです。

教授 中西 和樹
1986年7月 京都大学大学院工学研究科博士課程中退、同年工学部工業化学教室助手
1991年 京都大学博士(工学)。同工学研究科および理学研究科准教授を経て
2019年名古屋大学未来材料・システム研究所教授(京都大学高等研究院iCeMS兼務)

●趣味・好きなこと海外出張、PCいじり、適量の美酒美食、合唱

研究の魅力は

▶この研究の魅力を教えてください。
中西 本当の面白さはやっていくうちにだんだんわかってきたんですが、初めは模様がきれいにできるっていう、見て面白かったことですね。顕微鏡って、ボヤッとしたところからきっちりピントが合って、何があるのかっていうことがパッと見えたときが嬉しいんですよ。同職だった父(形状記憶合金に関するご研究)は、顕微鏡で金属の像を見ながら、期待通りの相転移※6の模様が見えてきたら「美女が微笑んでるみたいや」って言ってたんですけど、その気持ちも今はわかる気がします。

▶期待通りの変化を観察できたら嬉しいでしょうね。
中西 目で見てきれいなものはたいてい性質もいいんです。「整ったものができたら何かいいことがある」という面白さがあります。それはほかの分野、結晶を研究している人たちもそうですよね。ただ、それが乱れてるものの方が面白い場合もあります。私は、その乱れのところはガラスの研究を主なテーマとしていた京大の研究室で学びました。ガラスって液体と同じで非晶質(アモルファス)※7なんですよ。固まってて固体の材料なのに結晶のように分子が整列しておらず、色素やイオンを入れて様々な光学的な応用があって、それはそれで面白いですね。

▶きれいに整うように狙って制御するんですか?
中西 私の場合はこの制御っていうのを、ある形ができてくる前の全部が混ざってる状態から、だんだんAとBっていう別の成分に分かれていく、ちょうどセパレートタイプのドレッシングのように、全てを混ぜた後に分離するときに起きる変化(=相分離※8)を利用してるんです。その途中で2相が三次元的に絡み合った模様ができるんですが、ちょうどそこで重合によってゲルが固まるように初めの組成を調整したり、温度や触媒の条件を変えたりといった制御を行います。

実用化された成果

▶実際に実用化されているものもあるんですか?
中西 中学校くらいでペーパークロマトグラフィーというのを習うと思いますが、あれはインクや花を絞った色水を、各成分に分けてみましょうという実験です。実は紙って木材のセルロース繊維が絡まっていて、その隙間は水を通す孔になっています。そこに水を垂らすと毛管力(毛細管現象)によって、繊維の隙間に水が引き込まれます。各成分のセルロースの表面に対する親和性(好き嫌いの程度)の違いによって移動の速さが異なるので、 水溶液が繊維の隙間を移動する間に、帯のような模様に分かれるんです。
私がやっていたのはこれの高度な方法で、HPLC(High Performance Liquid Chromatography、日本語では高速液体クロマトグラフィー)と言って、広く分析化学や薬の分離精製等に使われています。
液体クロマトグラフィーは、カラム※9とよばれる分離管に、小さい孔がたくさん開いたシリカゲルの細かい粒がぎっしり詰めてあって、 そこに液体を通すと出てくる順番で分析できるという方法です。このカラムに詰める粒を、私たちが作った孔を制御した棒状の多孔体に替えると、同じシリカゲルなんですけれど分析の速さが10倍くらいになったんです。

▶それが実用化されたんですか?
中西 はい。もう随分昔の話になリますが、87年からこのシリカゲルを作り出して、93年くらいまでに構造を制御する方法は大体できていました。その頃にこの材料をHPLCカラムとして工業化するプロジェクトを京都の研究者やドイツの会社と一緒にやり出しました。上市までに7年かかりましたが、2000年に世界市場へ発売されました。それが世の中で一番使われたモノですね。それは本当にたまたまといいますか、前述のように、きれいなものを追いかけていたら、よい使い道があったっていうことなんですけれど。

HPLCカラム発売当時のパンフレット

 

好きなことは?

▶ところで子供の頃に好きだったことは?
中西 だいたい家で本を読んでいたので、外で遊びなさいとよく母親に叱られていました。母が家でピアノを教えていて、自分もやっていましたが、無理やり弾かされるのが嫌で中学校になる時には辞めて、じゃあ運動しなさいということで中学ではテニスクラブに入れられ、高校になって「やっぱり音楽をやりたい」と、ブラスバンド部に入りトランペットを吹いていました。大学では少しだけオーケストラにいましたが、あとは合唱をやっています。

▶音楽一家なんですね。
中西 私は子供の頃は反発してピアノを辞めてしまいましたが、息子たちは逆に手を焼くほど音楽にはまっていまして(長男はピアノ、次男はバイオリン)、大学や大学院の途中で(長男は電気化学、次男は森林科学)休学して音楽で留学したので、何の仕事に就けるのか心配ではあります。でも自分は何が好きかって改めて考えてみると「自分で工夫して何かを見つける」とか、そういうことが楽しいんやなと。それは息子たちも引き継いでいる気がします。

▶未来の研究者(高校生)へ向けて
中西 受験のためにではなく、自分の好きなことを少しでもわがままにやるのがいいと思います。予備校の先生には「苦手科目をちゃんとやれ」とか言われると思いますが、好きなことをすることを削ってまで、好きではないことをするのはしんどい。やはり高校くらいになると、面白いと思ってやる勉強は大学・社会人になってからの学びにも繋がります。チャンスがあれば、留学も含めて挑戦的に生きて欲しいなと思います。

研究者への道

▶長谷川先生は、最初から研究者になろうと?
長谷川 中西先生と同じく、私の父も同職で、小さいころから研究者になりたいとは思ってました。ただ、父と同じ分野(工学・高分子物理)を選ぶことに抵抗があって理学部に進学しました。大学に残るつもりも全くなく、企業への就職を考えていました。しかも大学入学当初は、生物系に進学しようと思ってたんですよ。昔から植物が好きでしたので、薬草学とか植生とかを研究したいと思って、生物系の講義ばかり受けていました。でも、3回生に上がる頃にあった各専攻の説明会で、生物学専攻に行くとみんなドクターに上がって… みたいな話を耳にしまして「会社に就職先がないのはまずいぞ」と。(当時の話で、一般論ではありません。)

▶それで化学へ?
長谷川 専門科目どころか一般教養でも、ほとんど化学系講義の単位がない中、急遽、進路変更して化学にしました(笑)。生物化学と有機化学は勉強していたので、4回生では有機合成化学研究室に入ったのですが、全く性分に合わなくて。大学院からは分野に関係なく、とりあえず自分に一番合いそうな研究室に入ろうと思って探したところ、無機化学系の友達が話していた研究生活が正に理想的で、研究室を移るために必死で院試勉強しました。修士課程で入れていただいた研究室に、准教授としておられたのが中西先生です。無機セラミックスの研究室でしたが、最初に研究テーマとしていくつか提示された中で一つだけ有機高分子のテーマがあって、これだったら無機化学に疎い自分でもできそうだと思い、リビングラジカル重合という反応を使って多孔質樹脂を作るテーマを選びました。最初は、修士の2年間だけやって企業に就職しようと割り切っていたんですが、研究してるうちに楽しくなってきてしまいまして。

▶どういうところが楽しかったのでしょう。
長谷川 このテーマは、電子顕微鏡で目的の細孔構造ができているかどうかを観察するんですけれども、ずーっとできない、できないという失敗続きのある日、ピントを合わせていくと、ヒューンっと作りたかった綺麗な模様が浮かび上がってきた時の感動と言いますか、達成感が嬉しくて。それからは、いろいろと重合系を変えながら、もうひたすらいろいろな物質で作るのを目指すみたいな。この物質でできたら次、これでもできないか、あれでもできないかと。気づいたら夢中になってました。

特任准教授 長谷川 丈二
2012年 京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了(博士(理学))。同年 京都大学大学院工学研究科 日本学術振興会特別研究員(PD)。
2015年 大阪大学 産業科学研究所助教(任期付き)。
2016年 九州大学大学院工学研究院 助教。
2019年名古屋大学 未来材料・システム研究所 特任准教授。
2021年 JST創発研究者(第一期)。
●趣味・好きなこと/植物を育てること(今は部屋とベランダで育てていますが、本当は広い家庭菜園が欲しい)、お酒を飲むこと(基本的に、毎日晩酌。酒フェスや日本酒の蔵開きにも行きます。)

▶どんな物を作ったんですか?
長谷川 最初はポリスチレンの親戚みたいなものを作ってたんですけれども、その後はポリアクリルアミド系(生物系でタンパク質などの分離によく使う電気泳動用ゲルと同じ材質)とか、メタクリレート系などです。

▶博士論文には15本の論文が載った、と中西先生から伺いました。
長谷川 とりあえずゲル化するものを手当たり次第取り組んだ、という感じですね。修士1回生の時は、有機高分子ばかりやっていたんですが、2回生の途中ぐらいから有機-無機ハイブリッド系にも手を出し始めて。座学と実験は別物というスタンスで、チタニア(二酸化チタン)の多孔体をとっかかりにして、徐々にセラミックス系にも挑むようになって、気づいたらドクターコースに進学していました。

ものづくりへ

▶大変手広く研究されていますね。
長谷川 その頃には何かに使いたいという欲が出てきまして、ポリマーを蒸し焼きにしてカーボンに変えて、それを電極に使うところから始めました。電気二重層キャパシタ※10ですとか、リチウムイオン二次電池の電極として使えないかと思いまして。うちは電気化学測定とか全くやっていなかったので、そういう測定ができるグループに週1~2回通って、やり方を教わって実験していました。そうこうしているうちに、電気化学も自分の専門の一つになりました。

▶「何かに使いたい」ってものづくりの原点ですね。
長谷川 現在の研究テーマは結構バラエティーに富んでいるんですが、この学生時代からのテーマは懲りずにずっと続けていまして。多孔質モノリス※11って言いますけれども、センチメートルスケールの塊の中に相分離で孔を開けるっていう… 。粉ですと、違う物質でも目で見た時には全部一緒みたいに見えてしまうのですが、塊は自分で手に取って触れるし、ものづくりが好きな私としては「作り上げた」という達成感をすごく感じます。

▶今新しく取り組まれているテーマは「固くて柔軟な材料」ですね。
長谷川 はい、全体の90%が孔なのでとても軽く、80%まで圧縮しても壊れずに変形・復元し、それでいてコルク栓よりも固いという材料です。先日、プロスポーツ用のフェイスガードの素材として良いのではないか、というお話をいただきましたが、この材料の使い道をまだまだ募集中です。

▶高校生に向けてひとこと
長谷川 私は材料化学の研究者なので、化学を通したものづくりに興味を持ってもらって、ある程度は大学でこういうことをやりたいんだといった感じで目標や意図を持って、この分野に進学してくれると嬉しいなと思います。とは言え、自分は全くそうではなかったので偉そうなことは言えません。ですから、高校生の時は、何にでも興味を持って、どんどん新しいことにチャレンジするのが一番だと思います。これはちょっと自分には合わないなと思うことも、やってみれば面白くて夢中になってしまうかもしれませんよ。私みたいに。

用語説明

※1 多孔体
多数の細孔をもつ物質のこと。シリカゲル、多孔質ガラス、活性炭、ゼオライトなどが知られる。 いずれも単位体積当たりの表面積が大きく、気体、液体などの分子やイオンの吸着性が高い性質を持つ。porous material。(↑ 本文に戻る)

※2 無機セラミックス
金属酸化物・炭化物・窒化物などの無機化合物が含まれる。(↑ 本文に戻る)

※3 有機高分子
炭素を主骨格とし、その他の元素として、酸素、水素、窒素などから構成される分子量が1万以上の有機物の総称。(炭素を含まない高分子は無機高分子。)有機高分子は、単に高分子やポリマー ( 英: Polymer) と呼ばれる。ちなみに、ポリマーに配合剤(添加剤、着色剤、強化材、他ポリマーなど)を練り込んだ成形可能な材料がプラスチック、樹脂である。(↑ 本文に戻る)

※4 ゾルゲル法(反応)
無機、有機金属塩の溶液を加水分解および縮重合反応によりコロイド溶液(Sol )とし、さらに反応を促進させることにより流動性を失った固体(Gel)を形成させる。このGelを熱処理することによりガラスやセラミックスを作製する方法のこと。
縮重合反応とは重合反応のひとつで、互いの分子内から水(H₂O)などの小分子を取り外しながら結合(縮合)し、それらが連鎖的につながって高分子が生成(重合)すること。
コロイド溶液とは、直径 10-5~10-7 センチメートル程度のコロイド粒子が液体中に分散した溶液のこと。
Gel は、Sol の状態の溶液が粘性をもって流動性を失い、固体になること。 (例)こんにゃく、ゼリー(↑ 本文に戻る)

※5 重合
小さい分子が互いに多数結合して巨大な分子、すなわち高分子となることを重合という。このとき出発物の小さい分子をmonomer(単量体)、重合の結果生成する高分子をポリマーpolymer(重合体)という。(↑ 本文に戻る)

※6 相転移
例えば、常温では液体の水が、摂氏零度以下では氷(すなわち固体)となり、百度を越えると水蒸気(すなわち気体)となるように、物質が物理的境界によって状態を一変すること。(↑ 本文に戻る)

※7 非晶質(アモルファス)
結晶のように原子やイオンが規則正しく並んでいない物質。(↑ 本文に戻る)

※8 相分離
単一の相にあった物質が、温度・圧力などの変化によって複数の相に分離すること。相転移現象の一種。
(例)相転移の変化の間に氷と水、水と水蒸気が共存している状態のこと。(↑ 本文に戻る)

※9 カラム
分離媒体となるシリカゲルなどの粒子が充填された、直径5mm程度、長さ10~20cm程度の通常金属製の管。粒子の間隙に試料溶液を流すと、分離媒体表面と親和性の高い溶質はカラム中に長く留まり、親和性が低ければ速やかに溶出するため、カラムから出てくるまでの時間を基準として複数の溶質を分離することができる。(↑ 本文に戻る)

※10 電気二重層キャパシタ
コンデンサに分類される蓄電デバイス。出力密度に優れ、大電流での充放電の繰り返しによる性能劣化が少ないという特徴がある。(↑ 本文に戻る)

※11 多孔質モノリス
マイクロメートルオーダーの網目状の骨格が繋がった特徴的な構造をもつ一体型の多孔質体のこと。見た目はまるでチョークのようだが、電子顕微鏡で観察すると、ジャングルジムのような骨格が連なった構造をしており、さらに骨格内にはナノスケールのメソ孔と呼ばれる孔が開いている。高い空隙率を持つため軽く、またナノメートル領域の小さな細孔がたくさんあるため、比表面積も非常に大きい。(↑ 本文に戻る)

文/構成:IMaSS広報委員会(植木保昭、小西雅代) ~『IMaSS NEWS Vol.15』特集より抜粋