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研究グループ紹介

八木研究室インタビュー

「何が・なぜ・どうして?」が大切!
~最適な波長の光で物性を解明する~

Mg-Kα光源を用いた光電子分光装置(表面化学状態分析)の前で。左から小川助教(工学研究科)、八木教授、池永准教授
八木教授が助手時代に初めて捕らえた広島大(HiSOR)の放射光画像

その物質の本質がわかっているのはどこまでで、どこからわかっていないのか。それは文章(論文)になっているのか。「研究者の最も必要な素養は、自分で問題を提起してそれを明らかにするという手段を身に付けていることです」と熱く語る八木教授。さらには「自身の手で作り、自身で分析し、解析し、自身の手でまとめるという、一連の研究を推進しています」とも。
今回は、そういった基本姿勢でシンクロトロン放射光を使って物質の構造や物性の研究を行い、またナノ粒子の作製を手掛けている、八木研究室にお話を伺いました。

液中プラズマ法によって作製したPdナノ粒子のX線光電子分光(XPS)スペクトル。X線と物質との相互作用は多岐にわたるため、多種多様な分析が可能であり、それらから得られる情報を解析することで物質の結晶構造や電子状態を余すことなく明らかにすることができる。図中のスペクトルから、水溶液中に分散したPdナノ粒子が時間経過によって酸化していることが分かる。

シンクロトロン放射光を使って物性を研究

教授八木 伸也

YAGI Shinya

profile

1995年 広島大学大学院理学研究科 博士課程後期修了を経て、1995年 分子科学研究所IMSフェロー。1996年 広島大学理学部助手、広島大学放射光科学研究センター助手。2000年 名古屋大学大学院工学研究科 助教授(准教授)。2012年 名古屋大学エコトピア科学研究所 教授。その後、未来材料・システム研究所 教授(現在にいたる)。
● すきなこと、趣味 / 専門外の方々との会話、釣り(40年ぶりに再開)、星を観ながらの飲酒、書道など。

八木研究室のメインテーマを教えてください。

八木:3人共通のキーワードは、シンクロトロン放射光を使って物性研究をするということです。と言っても耳慣れない方もいるでしょうか。光(電磁波)というのは、いろんな波長のものがありますよね。でも、研究で使うためには1つの波長の光にしなくてはいけないんです。そして、光の波長を1つに絞るのが分光学。シンクロトロン放射っていうのがその最たるもので、非常に大強度で分解能が良く、唯一無二の、質の良い波長の光に絞ることができます。その絞った光、即ちシンクロトロン放射光を使って物性研究をすることがまず1点。

まず1点と言うと?

八木:並行して試料作り*1もやっています。試料の素性がはっきりしないと、工業応用ができません。その素性が明らかになっていればこそ、試験管やフラスコのようなラボベースの小さな領域が、プールやドラム缶ほどにスケールアップしても均一にできるっていうことに繋がるという訳ですね。

タイヤの材料についても研究されていると聞きましたが。

八木:車のタイヤって接地面積がはがき約4枚ですから、私たちははがき4枚に命を預けているんですよ。ところが、タイヤの材料の詳しい物性については、実はいまだにわかっていない部分がたくさんあるんです。それは結局のところ匠の技で、今日は天気がこうで湿度がこうだからこんなもんだって、いつもの量より多めにとか少なめに、温度を高めにとかね。今、そういう技術を持っている方たちがどんどん減ってきて、どの産業も「数値化」して品質管理をちゃんとやろうと動いているんです。

具体的に、どういうところが未解明なんでしょうか。

八木:原料の、例えば加硫ゴム*2、ゴムに硫黄と補強材のカーボンブラックを混ぜて作るんですが、それらは測定することが困難であったため、推測でしか成り立っていないことが多いんです。その解決のために、放射光、特にゴムのような軟X線*3領域の物質、絶縁体も普通に測れる「He(ヘリウム)パス」っていう技術を、10年以上前ですが、大きく改善しました。

あいちシンクロトロンのピームライン(Bl6N1)で分光(単色化)される前の光(主としてX線)が、蛍光剤に投射された際に発した青色の光を撮影したもの。BL6N1にて、初めて放射光を導入した時(2012年10月11日)の光です。

八木先生が「He(ヘリウム)パス」という技術の開発者なんですね。

八木:オリジナルではありません。つくばのKEK(高エネ研)の技官の方が、私よりも10年位前に、やってみようかなというレポートが出されています。それが世界初です、実は。それを掘り起こして、うまくデータが取れるように開発し、水があっても測れる、軟X線でも測れるということで、今、世界中のシンクロトロン放射光には、「Heパス」っていうビームラインが、どこでも大体1本はあります。特に産業界から需要があり、稼働率が常に100%近くあるのも事実です。

あいちSRセンターの 軟X線領域のX線吸収微細構造分光(XAFS)測定装置と「Heパス」装置(BL6N1)。写真はナノ粒子を作っている風景(小川助教)

研究者への転機

「研究者になろう」と思われたきっかけは?

八木:高校の時は、数学とか物理、化学の教師になりたくて広島大学へ進学したんですが、大学2年の時に、ローラー博士(STMで1984年にノーベル物理学賞受賞)の講演を聞く機会があったんです。後に名古屋大学理学部教授に着任された関一彦先生(当時広島大で助教授)の講義を受けた時に「これからローラー博士の講義を聞きに行こう!」って言われて。それは「細くした探針(tip)で金属とか物質の表面をなぞると原子が見える」っていう話で、とにかくビックリしたんです。研究について何も知らない大学2年の時ですから。

硬X線を使った測定

准教授池永 英司

IKENAGA Eiji

profile

広島で大学時代を過ごし、大型放射光施設SPring-8(兵庫)を経て、2017年に名古屋大学へ着任。物理・化学の領域区分に制約されない研究を志し、いままで手が届きそうで、届かなかったフロンティア手法開発や応用展開を考えることが大好き。
● すきなこと / 城(とくに石垣の作りや形状をみることが好き)、広島Carpの応援。

八木先生が軟X線*3をメインでやっておられるのに対して、池永先生は硬X線(Hard X-ray)を使った測定をされると伺いました。

池永:私が専門にしているのは、概要としてはスペクトロスコピー(分光法)で、その分光法の内でも光電子分光という計測法です。強力な放射光施設のX線を物質に照射したときに、物質から放出される電子を直接観測するということをしています。電子の状態から、その物質が何でできているのか、どういう化学結合状態なのかを探っていく手法です。特に硬X線を用いた光電子分光では、軟X線と比較して数十倍の深さ分析が可能で、物質内部の電子状態を探ることが可能です。この硬X線光電子分光は、日本の放射光施設で開発され、世界に広がった手法なんです。

強いエネルギーを持ったX線を使って、液体中にあるままで物質の状態を調べられると聞きましたが。

池永:今まで、電子状態を探ることは、主として固体のものしか測定できなかったという背景があります。分析装置内は真空なので、溶液は真空中だと氷になる*4んですよ。「その場観察」ができないんです。そこで、強い硬X線を使える「SPring-8」という、世界でも3大放射光施設と言われている施設放射光施設に行って実験しています。それでやっと溶液自身のその場観察ができて、電子状態を探れるようになってきたんです。

topics「溶液の中はブラックボックス」

例えばコーヒーにミルクを注いだと想像したら、均一に混ざり合うわけではなくモヤモヤと広がることがイメージできるでしょう。では、水に食塩を溶かしたら? どうなっているのか、どう混ざり合っていくのかというのは、みんな空想を思い描いているだけ。今のところ誰にもわかっていないんです。見えないし、測る手立てがありません。固体になっていれば分析できますが、溶液の中は未知の世界、ブラックボックスなのです。
池永准教授は、ここに風穴を開けるべく、液体のまま測定できる方法を開発中です

凝集しないナノ粒子

ソリューションプラズマ(SPP)法

SPP法により、金属ナノ粒子が電解質溶液中に生成される。高分子干渉材を用いることなく凝集(原子などが多数集まって集塊となること)せず、粒径20nm以下任意のナノ粒径の状態を長期保つことが可能。

ここ(写真)には金のナノ粒子が入っているんですか?

池永:はい、食塩水の中に金のロッド(棒)を入れ、液中でプラズマ放電させています。そうすると、この電極の材質がナノ粒子で飛び出してくるんです。これはソリューションプラズマ法(SPP法)と言い、溶液中のナノ粒子の生成法です。この方法で作ると、年単位の長時間ナノ粒子の状態が保てるんです。一般的には、ナノ粒子を凝集させないために、いろんな高分子をまとわらせるんですね、わざと。その高分子の干渉によって粒径を保たせるので、不要な高分子がいっぱいあるんですよ。でも、この手法で作製すると、食塩水の中に単純に金だけが入っていて、しかも長時間保てるんです。なぜ凝集しないのか? 溶液中のナノ粒子はどんな状態なのか? ナノ粒子とその周囲の溶液が見せる不思議な電子状態を、直接的な観測から解き明かそうとしてます。

ナノ粒子

ナノとは、基礎となる単位の10-9倍(10億分の1)の量を表す言葉です。すなわち、1ナノメートル(nm)=10-9 (=0.000000001)メートルであり、髪の毛の太さの10万分の1程の非常に小さなサイズのことです。ナノ粒子とは、一般的にはそのスケールの大きさの粒子のことをいいます。

スペクトロスコピー(分光法)

物質中の原子や分子に含まれる電子のエネルギー状態は、その原子あるいは分子によって特異的に決まるため、どのようなエネルギーの光が吸収されるか(吸収スペクトル)、あるいは発光されるか(発光スペクトル)を調べることによって物質あるいは分子が同定できる。また新しい物質について発光・吸収スペクトルを調べることによってその物質の電子状態を知ることができる。物質の電子状態はその物質のマクロな性質を決める上で最も重要なのである。

光の波長

*今回のインタビュー記事に合わせ、許可を得てオリジナル画像から若干編集しております。

シンクロトロン(SR)光と電子顕微鏡の違い

電子顕微鏡は非常に小さく絞れる電子ビームを用いるのでナノレベルの画像分析で強力なツールとなるのに対し、シンクロトロン光は、物質の化学状態や局所構造の分析において最も強力な手法。「夢の光」とよばれるシンクロトロン光も万能ではなく、課題を解決するには他の分析手法との連携が不可欠である。

*1 試料=試験・分析・検査に供される物質のこと。見本。サンプル。

*2 加硫ゴム=生ゴムに硫黄を混ぜて加熱することで、ゴムの弾性が増し、温度変化によく耐え、油に溶けなくなり、対磨耗性も改良される等々の方法が、1839年にアメリカ人のチャールズ・グッドイヤーにより発明された。その後、1904年に、イギリスのS.C. Moteによって、ゴムにカーボンブラックを充填することにより、ゴムの強度や耐久性が著しく向上することが発明された。加硫法とともに現代ゴム産業の発展が始まり、堅くて丈夫な製品から柔らかくて弾力性のあるものまで、多種多様なゴムの生産が可能となった。

*3 軟X線=低エネルギーで透過性の弱いX線のこと。 約0.1~50nmの比較的長波長のX線で物質に吸収されやすい性質をもち、試料へのダメージが少ない。また、物質を透過する力が弱くなると、厚みの薄いものに対しての分析が可能となる。

*4 真空中だと氷になる=水は、常圧では0℃で凍り、100℃で沸騰、100℃を超えると気体になる。圧力が低くなると水の沸点は下降し、真空中では沸点が0℃なので、真空だと気化するが、水の量が多いと、気化熱(エネルギー)を奪われた気化に追いつかない水は氷になる。

聞き手・文/広報委員会(黒田、小西)『IMaSS NEWS Vol.06』特集より抜粋