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研究グループ紹介

小澤研究室インタビュー

小さな救世主が地球環境を守る
自動車排ガスもきれいにするナノ粒子を発見!

作製した触媒をハニカムに付け、自動車の排気ガス様のガスを流して加熱。CO、HC、NOxガスの浄化をチェック。
「コアシェル型CeO2-ZrO2」は排気ガス触媒のPt含有量を減らせるか?

近頃よく目にするようになった「ナノ粒子」で環境を浄化する研究をしているという小澤研究室。環境を浄化というのは、さまざまな場所に空気清浄機のような機能を配置させることで、徹底的に排気を浄化できるようにしようということのようです。でも、いったい何をどうやって…?
そのあたりを中心に、小澤研究室のみなさんにお話を伺いました。

「コアシェル型CeO2-ZrO2」は排気ガス触媒のPt含有量を減らせるか?
Can “Core-shell type CeO2-ZrO2” reduce Pt content in exhaust catalyst?

Pt/CeO2-ZrO2ナノ粒子触媒の電子顕微写真とCe、Zrの元素分布
(名大超高圧電子顕微鏡施設で観測した)
・ 白金は、約1nm
・ CeO2は、約5nmで、有害ガスを浄化するために働いている。
縞模様はナノ粒子内にあるCe-O-Ce間の結晶格子

「大気汚染を減らしたい」という思いで研究を

教授小澤 正邦

OZAWA Masakuni

profile

1979年名古屋大学工学部卒業。同大学院修了後、豊田中央研究所に入り、電子顕微鏡などを使った故障の解析で工場通いの日々。研究の志がついえたころ、自動車触媒で発明、実用化し、再び研究する気に。1993年から名古屋工業大学へ移り(助教授)、岐阜県多治見市にある研究施設で過ごしセンター長を経て、2013年から名古屋大学に里帰り、2016年から現所属。
● 趣味 / 若いころ打ち込んだ短歌を超えるものはないので、無趣味。自家菜園の野菜を食べながらの晩酌が楽しみ。

小澤研究室では、主に自動車の排ガスを浄化する研究をされているそうですね。

小澤:地球の環境、特に大気汚染を減らしたいと思って研究しています。それには、工場や自動車からの排ガスをもっと減らす必要があるんです。例えば、多くの基礎研究のように、「素晴らしい研究だけれど、役に立つのはずっと何十年か先」というタイプもあります。私は、以前企業に10年余働いたせいか「その時にすぐに役に立つ、実行性の高い研究」もあると思っています。それで、排ガスを浄化する今の機能を「より高性能に、より簡易に、より安く」するという別の高いハードルに対しています。

どのような方法で浄化しているんですか?

小澤:主な方法は、自動車エンジンから排出される有害なCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)*1に、触媒*2で化学変化を起こさせて、人体に無害なCO2(二酸化炭素)、H2O(水)、N2(窒素)にするんです。これは「三元触媒」といって、1970年頃から大気汚染が問題になって、自動車の排ガス規制が厳しくなったことから開発されました。この三元触媒のナノ粒子*3を、急激な熱変化や振動にも耐えられるセラミックスハニカム*4に付け、自動車の排気管に組み込んで排気を浄化します。これは今、ハイブリッド車など、ほとんどの自動車に入っています。

その浄化機能を、より良くさせようということなんですね。

小澤:そうです。排ガスを浄化する触媒には、主にP t(プラチナ)などの貴金属が使われていますが、希少で高価です。その助触媒*5として、やはり希少金属であるレアアースの一種、Ce(セリウム)が用いられています。これらは産業にとって必要不可欠、かつ地球の重要な資源であるため、無駄なく活用することや、代替資源の開発が強く望まれています。その要求に応える形で、セリウムの使用量を30%以上低減できる助触媒材、セリアジルコニアの開発に成功*6したのが、2013年のことです。今は、これを転機として、ほんの少しでも有効に働く環境用のナノ材料を極めようと研究しています。

化学現象は、あるものが別のものに変わるその瞬間に美しさがある

数ある元素の中で、セリウムに注目されたのはなぜですか?

小澤:セリウムの酸化物(CeO2)は、酸化するとかなり濃い黄色になり、還元すると青くなります。青と黄色の間を行ったり来たりするんですよ。技術にも芸術的なところがあって、きれい。それで注目したんです。物理はそれ自身が美しいんですが、化学現象で、とくに材料は、あるものが別のものに変わるその瞬間に美しさがあると思うんです。

「化学」にロマンが見出せたような気がしますね。

小澤:このアメリカインディアンが作った陶磁器(写真)、ツルツルのところは黒いけどザラザラのところは茶色です。これ、元はベンガラっていう酸化鉄が入った赤茶色の土で、焼いた時は酸素が奪われて(還元して)全体が真っ黒なんですけれど、削り出したザラザラのところは、空気に触れたことを覚えている酸化鉄で茶色になっているんです。同じものでも色(状態)は異なる。それは、宝石もそう。宝石になる岩石、持って来ました(笑)。子どもの頃、きれいだって言っていたような石。

写真左:アメリカインディアン伝統の陶器
写真中央:宝石(岩石)
子どもの頃から、いろいろな色の石があることを不思議だと思っていた。焼き物も石も、酸化還元で色が変わる、または含まれる金属によって色が異なる。

ハニカム

貴金属に代わる触媒

助教服部 将朋

HATTORI Masatomo

profile

2009年名古屋工業大学大学院博士後期課程物質工学専攻を終了、2009年フランス国ポワティエ大学触媒有機化学研究所博士研究員、2010年名古屋工業大学プロジェクト助教、2011年名古屋大学エコトピア科学研究所特任助教、2013年名古屋工業大学先進セラミックス研究センター特任助教、2016年名古屋大学未来材料・システム研究所特任助教、2017年同研究所助教(現在に至る)。
● すきなこと、趣味 / コントラバス演奏(アマチュアオーケストラ所属)、カラオケ、ドライブ

服部先生は、以前から化学の世界に興味をお持ちでしたか?

服部:僕はもともと、自分で何かを組み立てるというのが好きで、幼少期は段ボールや牛乳パックで遊び道具を作ったりしていました。文字ばかりの授業は苦手でしたが、数学のように、解答を自分の持っている知識で組み立てられるものが好きでした。そんな中、ベンゼン環の置換基の様々な反応をノートに書いて勉強しているときに妙にしっくりくるものがあったんです。

ベンゼン環がきっかけなんですね。

服部:書いているときはなぜかパズルを解いているような感覚で、これまで文字として捉えていた化学反応をイメージとして捉えられ、その瞬間に喜びを感じたんですね。そこに自分の性格がスポっとはまり、その時から化学というものに惹かれるようになったんだと思います。それから、大学の入学オリエンテーションで、先生方とお話する機会をいただいた際、化学を通して地球の温暖化や大気汚染問題に貢献できないかと考え始めました。

今やっているのはどういう研究なんですか?

服部:私は、自動車に限らず、様々な燃焼機関から出てきた排ガスを浄化する、触媒に着目をしています。白金のような、貴金属と言われる希少金属は、やはり浄化性能が高いので使われてきたんですが、その貴金属に代わる、活性の高いものはないかと。

得意分野の計算が中心

学振特別研究員 (※2021年現在 助教)

中村 真季

NAKAMURA Maki

profile

宇宙開発にあこがれ、物理学を軸に東京大学にて博士(科学)を取得。しかし、宇宙分野から大きく方向転換して趣味の自動車分野にて研究を始める。東京工業大を経て名古屋大学未来材料・システム研究所の研究機関研究員に着任。その後、第一子、第二子を出産し現職に至る。
● すきなこと、趣味 /
1.ドライブ!最近はMT車そのものが少ないのが難点。ちなみにディーゼルエンジン、いいですよ(笑)。車は3歳頃から大好きで、最初に好きになった車はマツダSA22C。
2. 運動が好きで、最近はボーリングやボクシング、子ども達と音楽に合わせてダンスをしています。

中村先生はどういったことをされているんですか?

中村:私は微粒子を主に扱う仕事をさせてもらっています。ディーゼル微粒子フィルター(DPF)という、ディーゼルエンジンから排出されるガスの中に含まれるすす(微粒子)を取るフィルターの研究です。微粒子がフィルターにつく過程だったり、凝集*7する過程をシミュレーションし数値化しています。また、ハニカムって、その材料自体に細かい300ミクロン*8程度の穴がたくさんあるので、壁面にも穴がたくさん開いているんですが、その穴にはどんな流れがあるのかとか、どの位置に触媒をつけたら良いのか、などの計算をしています。

子育てと研究の両立はご苦労もあるでしょう。

中村:子供たちは今、2歳と1歳で、もちろん保育園の送迎はありますし、とても忙しいですが、限られた時間の中でやるための集中力はついたかもしれないですね。どうしても、毎週1回のゼミに間に合わなかったり途中で抜けたりということもあるのですが、小澤先生は、寛大な心で見守ってくださっています。仕事は計算中心でやっているんですが、それも、私の得意分野をよく理解していただいているからだと思います。

地球環境を守る研究

小澤先生が環境に目覚めたのは?

小澤:子供の頃は、六角柱の天然の水晶が採れる山が近くにあるような、名古屋郊外の自然豊かな田舎で育ちました。中学の時、自分で石炭の乾留実験をしたことはインパクトがあり、理科や化学は面白いと思ったのですが、当時、この近くでも四日市ぜんそく、国道1号・23号線沿線の自動車排気ガス、石炭燃焼による空気の汚れが問題になっていて、「これは面白いんだけど、悪いことをしているのかな」といった矛盾した気分になりました。モヤモヤとした感じで、高校では天文部に入り、大学時代も、工学部に進んだのに詩を書いていたり。

どうやってそのモヤモヤから脱出されたんですか?

小澤:卒業研究で、宝石のような結晶を作ろうと、人工結晶研究施設(これはあとで、未来研の一部になっている)っていうところへ行ったんです。そこにあったのは、圧力を加えて結晶を作るという超高圧法と、水の中で結晶を作る水熱合成法。「石が硬いから圧力容器にするんですか?」と聞いたら「この石が、柔らかいからだよ」と。地中の圧力を再現して結晶を成長させるという訳です。容器がうまく変形して、その中で結晶が育つ。それはちょっと、物の見方が変わる出来事でした。サイエンスのしっぽに触れたっていうことだったんですね。

「化学は変化する瞬間が美しい」にも通じますね。

小澤:その時「これは役に立つ」と直感したんです。そういう日常の向こうへといった見方をすれば、公害も解決の手立てがあるかもしれないと。これは、機能性のカーボン(炭素)微粒子ですが(大学院での研究、写真)、廃棄されるプラスチックからでもできる。工学研究は「世の中を良くしたいという気持ちが、自然法則の形であらわれたもの、その分野」と個人的には思っています。高性能にするのはもちろん、出てしまう有害物でも無害化する研究をしようと、この時考えたんですね。

その時の思いが今に繋がり世の中に貢献されているなんて、素晴らしいですね。

名古屋大学発行『現代技術を考える』
表紙の電子顕微鏡写真は廃プラから作った機能性カーボン微粒子材料(当時学生の、小澤が作製・撮影)

基礎知識

*1 NOx(ノックス)

ちっ素と酸素が反応してできた物質の総称。一酸化ちっ素(NO)と二酸化ちっ素(NO2)をまとめて指すことが多い。燃料に含まれるちっ素化合物や、空気中のちっ素が高温で燃えて酸化されることによって発生する。自動車の排ガスや工場設備などから多く発生する。光化学スモッグや酸性雨などをも引き起こす。

*2 触媒(しょくばい)

一般に、特定の化学反応の反応速度を速めさせる物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいいます。

*3 ナノ粒子について

・ナノとは:10-9倍(10億分の1)の量であることを表わす言葉。すなわち、1ナノメートル(nm)は1mの10億分の1、1mmの100万分の1の大きさで、髪の毛の太さの10万分の1程度と例えられます。
・ナノ粒子の特性:同じ総重量で粒子を比較した場合、粒子が小さくなると粒子の総表面積は大きくなります。大きな1粒よりも、細かい粒がたくさんあった方が、その総表面積は格段に大きくなるという訳です。
・触媒反応について:触媒反応は触媒表面で起こるため、触媒粒子をナノスケールのサイズにまで小さくする、すなわちナノ粒子にすると、反応が格段に促進されるのです。逆に触媒の量を減らすことも可能になります。

*4 ハニカム

蜂の巣
・ハニカム構造:強度を損なわずに、平面を隙間なく敷き詰めることができ、できる限り少ない材料で広い巣を作る、蜂の巣のような構造のこと。
・(触媒用としての)ハニカム:排ガス中に含まれる有害成分を化学反応で無害化するために、ハニカム構造を利用して作られた円柱型の構造物。

実験用の小型のハニカム

*5 助触媒

ある触媒が単独で示す触媒作用を強化する働きをもつ物質のこと。

*6 助触媒材、セリアジルコニアの開発に成功

小澤教授は自動車触媒のキーマテリアルとなっているセリアジルコニアを世界で初めて発明し、その開発を先導してきました。また、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)プロジェクト「排ガス向けセリウム使用量低減技術及び代替材料開発/排ガス浄化用触媒のセリウム量低減代替技術の開発」では株式会社ノリタケカンパニーリミテド、名古屋工業大学との共同研究で新材料開発も行いました。

*7 凝集

気体または液体中において、その中に分散している小さな粒子や微粒子が集まって、より大きい粒子となったり、団塊を形成する現象。

*8 ミクロン

マイクロメートル。長さの単位。1ミリメートルの1000分の1。記号 μm

聞き手・文/広報委員会(三輪、小西)『IMaSS NEWS Vol.07』特集より抜粋