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楠研究室インタビュー

炭素原子1層の謎にせまる
~炭化ケイ素(SiC)の表面に残った炭素(C)はいかに~

左から 乗松 航 助教(工学研究科)、楠 美智子 教授、寺澤知潮 研究員

軽くて丈夫なことで知られている「カーボン(炭素)」は、テニスラケット、ゴルフシャフトなどのスポーツ用品に使用されたり、また、炭素繊維は飛行機のボディーへ大量に使用されるようになるなど、身近な存在となりました。しかしこのカーボン、まだまだ未開発の不思議な力を持っているのです。
今回は、楠研究室で開発した「SiC表面分解法」などにより、炭素原子1層の膜になったグラフェンについて、最先端の研究開発を続ける、楠研究室のみなさんにお話を伺いました。

早速ですが、世界で最も注目される物質の1つとされる「グラフェン」について教えてください。

乗松:炭素(C)原子同士が、ハチの巣のように六角形に結合した、原子1個分の厚さしかない物質です。軽い上、引っ張り強度や、熱伝導の良さは何よりも優れていて、電気の伝導度も大変良い、究極の2次元材料です。

化学の世界では、大注目の物質なんですね。
いつ頃世の中に登場したんですか?

楠:「うすーいグラファイト」は日本でも優れた研究が盛んにされていたのですが、コンスタンチン・ノボセロフさんが、C原子を単層のグラファイト(グラフェン)にして電気測定をした結果を、2004年に最初の論文として出したことがブレイクスルーとなり、2010年にノーベル賞を受賞されました。

乗松:僕たちは、SiCからグラフェンを作り、透過型電子顕微鏡で見て構造解析をするといったことをしています。応用研究として、例えばそれでデバイスを作れたら、すごく高周波、高速で作動するトランジスタができ、今後の市場として期待大です。

楠先生は、パワー半導体としても注目されているSiCから、驚異の新素材と言われるカーボンナノチューブ(CNT)が自然に同方向に並んでできるのを、世界で初めて発見されたんですよね?

楠:そうですね。名大に来る前、ファインセラミックスセンターで、セラミックスの、電子顕微鏡を使った構造解析をしていた頃のことです。セラミックスの中でもSiCという、非常に硬い物質が、高温の中でどう変化するのかを研究していた時の発見です。

セラミックスSiCの構造変化を研究されていた時の発見だったんですね。

楠:当時、電子顕微鏡の中で加熱できる温度は1000℃ぐらいまでのものしかなく、それでは熱に強いセラミックスはびくともしないので、2000℃まで加熱できる顕微鏡を3年半がかりで手作りしたんですね。その間、ターゲットとする物質から、とんでもなく離れたところを加熱するものを作っちゃったり、振動で揺れると画面には何も映らないですし、たくさんの失敗を重ねて、やっとくっきりと見える装置ができたんですね。そうして、1200℃位での、大きく構造が変わる様子や粒子の焼結の様子を直接見ていましたら分解を始めたので、「おやおや?何が起きた??」と。

粘り強い研究が発見に結びついたんですね。実用化への道は?

楠:CNTは、電子を一方向に伝えたり、ものすごく弾力があってしかも強い。そして何より軽いです。SiCの表面にCNTがびっしりつけば、表面積は無限に広がることになります。そういったことを利用した、新規電池材料、海水の淡水化、分離膜などへの応用が期待されており、研究を続けています。

ところで、この世界に入ったきっかけは?

楠:女子高だったのですが、数学の問題を解くのが好きで、数学ばかり勉強していました(今は数学苦手ですけど…)。姉や妹は、親から早く結婚するよう言われたんですが、私はなぜか自由にさせてもらってドクターまで進めました。東工大入学当初は男子ばかりで居心地が悪いと感じていたんですが、研究室で自分の居場所ができて、透過型顕微鏡の回折現象に夢中になりました。

乗松:顕微鏡をのぞいていると、どこにどういう原子がどういう並びをしているのかを、本当に自分の目で見られます。それが、電気がよく流れるとか全く流れないとか、硬いとか柔らかいとか、物の性質と「見えた構造」とが直接関係していて、ようやく全てがつながりました。それで、顕微鏡の世界へのめり込んだ訳です。最初は2次元の酸化物をやっていましたが、現在は究極の2次元材料グラフェンに集中しています。

寺澤:僕は元々、極端に大きいとか小さいといったものに興味があり、大学で研究室を選ぶ時、CNTの、直径と長さの比が1:1000位までいく、またグラフェンは、厚さが原子1個なのに、すごく広い面積のものができる、これってすごい!と思い、物理や化学が得意であったことも活かせる今の道へ入りました。

文:IMaSS 広報委員会(松田、小西)『IMaSS NEWS Vol.03』特集より抜粋